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そして式場を出て程なく、真友子は、相変わらず憮然としたままの彼に
そっと尋ねた。
「大ちゃん、何か有った?」
だが、大祐は視線をやや俯けて正面を向いたまま、低い声で言ってくる。
「ごめん、まぁゆ。僕、もう帰りたい」
十年前の真友子なら、訳も言わずにこんな態度を取られたら、間違いなく
怒りだしただろう。
だが、管理職になって身に着いた寛容さと辛抱が、明らかにおかしい大祐を
受け入れた。
「分かった。じゃあ、帰ろう。
でも帰ったら、斜めになっちゃったご機嫌の理由を聞かせて欲しいな」
うん。
項垂れるように頷く大祐と、会話もないまま帰路につく。
そして、軋んだ空気を間に挟み、電車に揺られること小一時間。
「ただいま」
マンションに戻った時は、さすがに真友子の声も少し疲れていた。
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