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結婚式は町の神社で行われる予定だったが、都会かぶれの許嫁の我儘により、牧師を呼んで燈台で行った。この燈台からは海と町中を見渡すことができた。
「あなたは、彼女を、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
牧師は花婿にそう尋ねた。
「はい、誓います。」
花婿は自信満々に答えた。
「あなたは、彼を、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
牧師が少女にそう問いかけた。
すると問いかけられた少女は、一目散に走り出した。彼女の目にはもう燈台のもっと先にある崖しか映っていなかった。
「花嫁が逃げたぞ。」
花婿と参列者はその言葉にハッとして花嫁を追いかけた。
少女は崖まで来ると振り向いて、追いかけてくる人々に寿いだ。
「はい、誓います。彼を愛し、一生添い遂げることを。」
彼女の体は傾き、崖の下に落ちていった。次の瞬間、人々は目を疑った。『海』が落下していく彼女の体を包み込んだのだ。それはまるで、恋人同士の抱擁にも見えた。そして、彼女の体は『海』にとけて、泡一つ浮かんでくることはなかった。
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