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人魚姫
パシャ。過去に飛ばしていた彼女の意識を『海』が今に連れ戻した。
「あの時はすまん。」
「なぜ、謝るの。」
謝るなら俺の方だ、そう彼女は思った。
あの船軍の後、落ち込んだ俺を見かねた上司たちによって持ち込まれた縁談の娘と結婚した。子供にも恵まれ、最後は子供や孫に囲まれて布団の上で天寿を全うした。いや、布団の上なんかで死んでしまった。親友と結んだ唯一の約束を破ってしまった。
「気付いたら、女子の体で生を受けていたから、今度こそはお前と胸を張って一緒に居られるって喜んだのに、どうして…。」
あの時よりも近くて遠い距離でしか触れ合う事が出来なかった。
彼女の目からは小さな海が産まれ『海』に溶けていった。
海は相変わらず凪いでいた。
「いっそのこと、人魚姫の様に泡になれたら、海に融ける事ができたらいいのに。」
「そんなのは、お前の幸せじゃない。」
『海』が声を荒げた。
「自分の幸せは誰かが決めることじゃない。私は『俺』は昔から…。」
そこまで言うと少女は黙り込んだ。
「もういい。さようなら。」
少女はそう言って起き上がり、浜に向かって一目散に駆け出した。『海』が引き留めるように足にまとわりついてきたが気づかないふりをした。
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