遺品

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 お祖母ちゃんが亡くなった……。  少し足は悪かったが、まだ72歳だった。自室のいつも座っていたロッキングチェアで、これもいつも読んでいた星座の本を膝に置いたまま、誰も知らないうちに静かに召されたようだ。  家族葬だったが、仲の良い親戚が多いのと、ご近所さんは無下に断るわけにもいかなかったため、50名が定員の葬儀会場で立ち見も出る通夜となった。人気者だったのだ、お祖母ちゃん。  通夜後は近い親戚だけが残り、同居していた私は両親と共に各テーブルでお酒とかソフトドリンクのお酌に回り、「大きくなったわねぇ」とか「もう彼氏は出来たのかい?」などといつもの酔っ払い組の親戚達に言われつつも、結局その酔っ払い組の一部と朝まで線香番をして起きていた。  若い住職だったためか葬儀の説教も短く、バスに揺られて火葬場に行く。火葬場での最後のお別れは涙が止まらなく、特に長くお祖母ちゃんの世話をしていた母は大声をあげて泣いていた。お祖母ちゃんを見送り、控室で用意された仕出し弁当を案外すんなりと平らげた私は、一人火葬場の駐車場へ向かった。  都市部の大きな火葬場だったので、8人程が同時に煙となって天に向かって昇っていくだろう北の街の外れにある高い煙突に  「いい人達と相席の、良い旅になるといいね、お祖母ちゃん。」  などとひとりごち、少し昔に人工音声のアイドルが歌ったポップな火葬の歌を口ずさんだ。この曲が流行った子供の頃、お祖母ちゃんと約束したのだ。お祖母ちゃんが天へ旅に出る時にはこの歌で見送るよと。忘れていなかったよ、お祖母ちゃん。  お祖母ちゃんの骨は、弱かった足以外は綺麗に残ったという火葬場の人の話だった。交代で箸で骨壺に骨を入れ、葬儀場の人が慣れた手つきで処理をして箱に入れて包んでくれた。遺骨を持った父と遺影とともに最後にバスに乗り、葬儀場へ戻り繰り上げ法要をした。ややシステムマチックだったが良い対応をしてくれた葬儀場の方に挨拶をして父の車で自宅に戻る。  玄関で塩をひとつまみ体に振りかけ、シャワーを浴び、部屋着に着替えておばあちゃんの部屋へ行った。まだお祖母ちゃんの臭いの残る部屋にシャンプーの香りをつけるのは抵抗があったけど、お祖母ちゃんも同じシャンプーを使っていたし良いだろう。本棚に並んだ古い本を1冊手に取って眺めてみる。  母もこの部屋にやってきた。
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