遺品

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 「バカかね、この子は。これは『とけゐ』って書いてあるの、『とけい』。旧仮名遣いって知らないの?昔はこういう字を使っていたの。」  箱を開けると、そこには今の時刻を指した婦人もののシンプルな時計が入っていた。私は自分のバカさ加減を呪った……が、時既に遅し。  「おとーさん、私たちの娘は旧仮名も読めない大馬鹿だったのよ!」  母は爆笑しながら父のいる居間にバスタオル1枚の姿のまま向かった。  後からひょっこり部屋に来た父は  「『ゐ』はワ行の『い』だから厳密には違うけど、まあ、それを『とける』とは呼ばないよなぁ、普通。」  などとフォローになっているかどうか怪しい話をして出て行った。居間のほうからは母が誰かに爆笑しながら電話を掛けているようだ。  翌日には親友の千代子ちゃんに 「旧仮名知らなかったんだって?」  などと言われるの始末である。人の噂も七十五日、私に出来るのはただ刻が過ぎるのを待つコトだけ……。 「知らなかった!知りませんでした!!」  ……そして、その時点で、「とけい」ならぬ「とけゐ」の本当の秘密を知っていたのは天に昇っていったお祖母ちゃんだけでした。まさか、そんな、私がこの世界を……。  だって、内箱の裏にお祖母ちゃんの書いた取扱説明書が入っているなんて   「知らなかった!知りませんでした!!」 完
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