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★狂乱魔女との対決★
エルマさんとレンさんから逃げてからけっこう走ったがまだ気配を感じる。
恐らくエルマさんが探知魔法でも唱えて私を探しているのだろう。
もし見つかったら彼等の仲間を殺した私は確実に消される。
それだけは避けなければ!
でもどうしよう、下手に動けば殺されてしまう。
「五月雨さんどうしましょう、下手に動けば殺されてしまいますよね?」
「そうね、でも下手に動かなければ私達の勝利よ!」
「でも五月雨さん、簡単に言うけどけっこう難しいのでは?」
「水無月、姿を消す呪文を唱えてみなさい」
「分かりました! ティエル!(魔力よ、姿を隠せ!)」
パシュン!
「これで姿は消えたはずです、次はどうしますか?」
「そうねぇ、試しに一歩前に出てみなさい」
「はぁ~ 分かりました」
私は何で一歩前に出るように言われたのかがこの時は分からなかったけど、前に出た瞬間理解できた。
前に進むと『バキンっ!』という音がしたと思ったら魔法の効果が消えてしまった!
「なっ! 魔法の効果が消えた!?」
「やっぱりね」
「やっぱりって、こうなることを知っていたのですか?」
「まぁ何となくこうなるってことを予想していただけよ、それよりこの魔法はカルセドという解析魔法ね」
「解析ですか? でも何で解析魔法で呪文が破られるんですか?」
「貴女はどんなに修行してもバカのままなのね」
「ひどいっ!」
うぅ、五月雨さんは酷いです。私は訊いて当然の疑問を言っただけなのに!
でも……そんな酷い人でも私自身なんですよね。
「…………五月雨さん、解析魔法はただ解析するだけじゃないのですか?」
「そうよ、貴女の言うとおりカルセドは解析するだけの魔法……でもただの解析魔法じゃない」
「カルセドで魔法を解析すると解析された魔法は効果が打ち消されて使い物にならなくなるの。まぁもっとも特殊魔法が限定だけどね」
「そうなんですか、でもそれじゃあこちらから奇襲をかけるのは難しいですね」
「奇襲なんてかけないで堂々と正面から行けばいいじゃない」
「ほえ?! 今なんて?」
私はこの瞬間、五月雨さんの言ったことが理解できなかった。
「五月雨さん、今なんて言いましたか? 正面から行けと?」
「えぇ、今の貴女ならその気になればあの二人くらい簡単に殺せるわよ」
「で、でも相手は昔私をやっつけた二人なんでしょ? 正直怖いですよ」
「なに弱気になってるのよ水無月レイ! 戦うのよ!」
「でも………。」
「はっきり言ってあいつらに負けたら最後、貴女は首を切り落とされて獄門コレクションにされるわよ? それでもいいの?」
「獄門………。」
「そう、獄門……さらし首よ」
「それは嫌だ! 死にたくない!」
「それならばやることは一つ、エルマとレンに戦いを挑み殺しなさい!貴女は奴らの仲間である竜の女を殺しているのだから先に見つかれば命はないと思いなさい!」
「分かりました!」
殺らなければ殺られる、殺らなければならないんだ!
覚悟を決めました、私は彼らに勝負を挑みそして勝ちます!
「……………。」
ふぅ~ ようやく戦う決心がついたようね、これで私達の融合が出来る可能性も増えたわけね。
フフフフ、これでようやく本来の目的を達成できそうね、娘を守る力をつける……まぁこの目的はもう達成したも同然。
後は元の世界に帰り、娘達の命を脅かす奴らを消せば目的完全達成よ!
もっとも私は記憶のバックアップに過ぎないから実際にやるのは水無月レイが記憶を取り戻して実行することになるでしょうけど。
「水無月、レンとエルマは斜め右後ろ五十メートル先にいるわよ!」
「分かりました、では行きましょう五月雨さん!」
私は剣を強く握りしめ五月雨さんが言っていた方角に全力疾走した。
「エルマさん、レンさん、覚悟してください! それと記憶も元に戻してもらいます!」
ガサガサガサガサガサ!
「………っ!?」
俺はシーンとしていた森に突然誰かが走ってくるような音が聞こえてきて驚いた、
何故ならその足音は徐々に俺たちの方に近づいてきていたからだ!
「なぁエルマ、この足音ってもしかしてディアボロスを殺した犯人の……。」
「そのとおりだレン君、この近づいてくる足音は!」
ザッザッザッザッザ!
「はははは、まずいよ……俺心の準備がまだできてないぜ」
「そうかい、でも相手は準備なんか待ってくれないよ! 来るよレン君!」
エルマが『レン君!』といった直後、
森の木と木の間から白髪の少女――水無月レイが剣を握りながら飛び出してきた!
「エルマさんレンさんお久しぶりですね、そして私の記憶とお二方のお命頂戴いたします!」
ガンッ!
レイが喋りながら剣を振り下ろしてきたので俺はその攻撃を魔法剣で防いだ!
「あはははは、さすがはレンさんです、私の攻撃をあっさりと防ぎますか」
「はは、そりゃあどうも」
くそぉ、小柄な体系のわりにとても重い攻撃だ、腕がしびれる。
だがここで負けるわけにはいかない! 負ける=死だからな!
「うぉおおおおおおお!」
ガインッ!
俺は渾身の力を込めてなんとかレイごと剣を弾き飛ばした!
そして弾き飛ばされたレイは大木に激突した!
「がはっ! うぅ……。」
どうやらダメージを与えることが出来たのかレイが大木の下でうずくまっている。
「レン君! 今がチャンスだぁ!」
「わかってる」
そう、わかっているさ……だけど数か月前までは一緒に過ごしていた仲間を殺すんだ、とても気が進まないのが人情だろ?
だけど殺らなければ殺やられる、ならば!
「とどめだ! 水無月レイ!」
彼女の名前を呼んだ後、レイの首めがけて一気に魔法剣を振り落とした!
出来れば苦しまないように殺してあげたいからだ。
これで終わり、レイは死ぬ、そう思った。
だが次の瞬間予想外のことが起こり彼女の反撃をくらってしまった!
「レンさん、油断しましたね……。」
「なにっ!?」
「五月雨さん! お願いします!」
「さ、五月雨だと!?」
「セバイルド・オブ・ザ・タイム!(過去の時よ、分離して具現化せよ!)」
「セバイルド?! 何だそれ――」
ゴスっ!
「痛っ!」
突然拳で左腕を殴られた! しかも殴ってきたのは数か月前に見たことがある女――五月雨レイだった!
「な、何で五月雨レイが? まさかレイは二人いるのか?!」
「………。」
「いやだが待てよ、確か水無月レイは五月雨レイが記憶を失った時の姿だからそれはありえないか」
「それに何だかこの五月雨レイ、まるで人形みたいに無言のままだ」
「もしかしてさっきの呪文はクローンを作り出せる呪文か!」
「ふふふ、なかなか感がいいじゃないのレン」
何だ!? 今大人の時のレイの声がどこからか聞こえてきたぞ!目の前のレイが喋ったのか? いや、それならば口が閉じたままなのはおかしい。
いったいどこから……。
「あらあら困惑しているわね」
またレイの声が、しかも今度は嘲笑うかのように。
畜生! どこにいるんだ!
俺は何が何だか分からなくて焦っていた、だがその時フィーナが俺に話しかけてきた。
「マスター マイマスター!この声はどうやら水無月レイの持っている剣が喋っている声のようです」
「剣がか? じゃああの剣にはレイの魂が入ってるのか?」
「いえ、それはあり得ません! 水無月レイの身体の中にはちゃんと魂があります」
「じゃあ何なんだ、あの剣の中から聞こえる声の正体は!?」
分からないいったい何なんだよ。
「もしかしたら……マスター、あの声の正体は剣に宿ったレイの記憶そのものが意思を持ち、そいつが喋っているのかもしれません!」
「記憶が? でも記憶が意思を持って会話することなんてあるのか?」
「というか記憶をどうやって剣に入れたんだ? 簡単には入れられないだろ?」
「そうですね…ただの一般魔導士ならばそれは難しいです、でも上級魔導士ならば簡単に出来ます」
「まじでか! じゃあ今俺たちの敵は水無月レイ、五月雨レイ、五月雨レイのクローンの三人ということか」
絶望的だ……どう考えても勝算はない。
俺達三人で挑んでも苦戦したレイが三人だぞ、勝てる気がしない。
「………マスター」
まずいですね、マスターが絶望しています。
このままでは動きに隙が生じてやられてしまいます。
何とかマスターに希望を持たせないと。
う~ん………そうです! 一つ方法がありました!
「マスター 水無月レイが持っている剣を破壊してしまえばクローンも五月雨レイの記憶も消え去り敵は一人になります」
「本当か! それならば希望が見えてきた! よぉし!
エルマ、レイの持っている剣を破壊するぞ! そうすれば敵は一人になる」
「えぇ!? 何だかよく分からないけど分かったよレン君!」
レン君行き成りどうしたんだろう? もしかして勝算がある作戦を思いついたのかな。
でもレン君が言うのだから間違いはないか。
「ちなみにレン君、どうやってレイの剣を破壊する気なんだ?」
「それは俺が剣に触れて死ぬ前にディアボロスが教えてくれた破壊魔法で壊すよ」
「危険じゃないか、レイだって壊されないように抵抗するだろうし」
「大丈夫、それにこちらにはエルマという大魔導士様がいるんだ、レイの動きを封じるなんてたやすい事だ、そうだろ大魔導士様♪」
「レン君………。」
「頼んだぜエルマ」
「うん! 分かったよ!」
やったぁ! レン君に信頼してもらえてる! 嬉しい!
よしっ! 全力で足止めするぞ!
「……………。」
まずいわね、この状況ならどんな作戦で来られても問題ないと思い黙って見てたけどとんでもない作戦を思いつきやがった!
確かに依り代であるこの剣を破壊すれば私の存在は消え、私が創り出したレイのクローンも消える!
そうすればこちらは水無月レイ一人になってしまう。
それだけは避けなければ! もしこの剣を破壊されてしまえば今度こそレイという存在は消されてしまう!
「水無月! アイツらの作戦は聞こえてたわよね?」
「はいっ!」
「ならば全力でこの剣を壊されないように護りなさい!」
「分かりました!」
「本当に壊されないように護りなさい! もし壊されたら貴女は一人になり確実に首が地面に転がることになるわよ!」
「うわぁああああ! お、脅さないでぇ!」
そんなに脅されたら焦って動きが悪くなっちゃうよ!
「水無月、私が合図したら全力で走り相手を切り裂きなさい!」
「でも五月雨さん、相手は二人いるんだよ? 正直返り討ちにされないか不安ですよ」
「水無月、死にたいの?」
「はうっ! 分かりました! やりますから怖い事言わないで!」
「分かればいいのよ……安心しなさい、私が援護して守ってあげるから」
「五月雨さん……私のことを………。」
「貴女が死んでしまったら元もこうもないからね」
「やっぱりそうですよねぇ」
うぅ、ちょっとでも期待した私がおバカさんでした。
「もういいです! では援護をお願いします、五月雨さん!」
「任せなさい!」
五月雨さんの任せなさいは実に頼もしいです、これならば私も安心して戦えます。
レンさん、エルマさん……私は殺されるわけにはいかないのです。
記憶を取り戻し、私の本来の目的を達成させないとならないのです。
だから私は貴方達を仕留めます、覚悟してください!
「……マスター、彼女たちが動き出します」
「わかった、エルマ! アイツらが動き出したら五月雨レイの姿をした方を足止めしてくれ!」
「わかったよ!」
「よし! それじゃあ行くぞ! 覚悟しろよレイ!」
「はっ! それはこちらのセリフよ!」
そう、前回は敗北したが今回は勝つ!
「水無月レイ! 三、二、一で行きなさい!」
「はい!」
「三、二、一、行けっ!」
「はいっ! やぁあああああ!」
「レンさん、エルマさん! 覚悟ぉおおお!」
「うわっ! 水無月レイがこっちに向かって突撃してきたぞ!?」
「レン君大変だ! 五月雨レイの姿が見えない!」
「何だって?!」
それはまずいな、水無月レイはこちらに突っ走って来てるし五月雨レイのクローンは恐らくはどこからかいきなり現れて攻撃するつもりだろう。
だが逆に考えればこれはチャンスかも。水無月の攻撃を弾いて俺が剣を破壊すれば勝利にかなり近づける!
だが失敗したら剣で斬られるか、クローン体の方に殴り殺される。
失敗は許されない!
「フィーナ! レイ達の動きは分かるか?」
「わかります! 水無月の方はこのまま突撃してきます!
そしてクローン体の方はマスターの目の前に出現して攻撃してきます!」
「何だってぇええ!」
ゴスッ!
「がはっ!」
フィーナの予知を聞き終えた瞬間にクローンが現れ
俺のみぞおちを思いっきり殴ってきた!
「しまったぁ……。」
苦しい、息が出来ない………。
完全にはいった、力が出ない。
タッタッタッタっ!
やばい、今度は水無月レイの方が俺の目の前まで来ちゃったよ。
それも、思いっきり剣を振りかぶりながら。
「レンさん、とどめです!」
くそぉ~ やられる!
「あぁあああああ! レン君から離れろぉおお! ザルメディス!(斬撃の旋風よ!)」
「水無月! 斬撃魔法が顔に飛んでくるから避けなさい!」
「ちっ、もうちょっとでレンさんを仕留められたのに!」
ザシュッ!
「ちっ、避けられたか。だがいつまでも避けられるかな!」
「セルティエル!(光の弾丸よ!)」
ビューン!
ちっ、エルマの奴複数の光の魔法を跳ばしてきたわね!
水無月にこの魔法はかわせるとは思えないし、仕方がないわね。
「ダグルメア!(闇の砲撃よ!)」
「そしてクローン体はエルマを殴り飛ばしなさい!」
「…………。」
タッタッタッタ!
「やはりこちらに来たか! しかも魔法で私の魔法を相殺しつつ五月雨レイの姿をした奴をよこしてくるとは!」
「エルマっ!」
ガキンッ!
「ふふふふ、レンさん私のことを忘れないでくださいよ、寂しいじゃないですか」
「くっ!」
このままじゃエルマを助けにいけないぞ!早いとこ水無月レイを倒してエルマを助けにいかないと。
だがどうする、水無月レイは小柄だが思ったより強いうえレイの意思を持っている魔法剣を持っている。
全然隙がない………。
「ふふふ、どうしたんですかレンさん? 何だか顔色が悪いですよ」
「ははは、そりゃあ悪くもなるさ、正直お前たちの戦術はいつも冷や汗をかかされるよ」
「お前たち……ですか、レンさんは勘違いをしています」
「お前たちではなく……お前には、ではないかしら?」
「なにっ!?」
今水無月レイの口調が少し変わった! いや、口調どころか声色も!
まるでいきなり五月雨レイが出てきたような感じみたいに!
「………水無月レイ、お前もしかして記憶が戻り始めてるのか?」
「記憶? 何のことでしょうか? 私は記憶が一部ないから貴方方と戦っているのですよ」
「絶対に取り返して見せます! それが私の目的!」
ガインッ!
レイが言葉をいい放ったあとに剣を横にスライドさせて俺の剣を弾いた!
そして立て続けに魔法を放ってきた!
「正直用があるのはエルマさんだけですからレンさんは殺しちゃっても問題ないのですよっ!」
「デリエスル!(生命活動を停止せよ!)」
ギャオン!
「何だこの魔法、とてつもなく恐ろしい気分になる!」
「マイマスター! その魔法は当たってはいけません!
当たれば生命活動を停止させる即死魔法です!」
「なんだって!? そりゃあ恐ろしい気分にもなるわけだ!」
「あははははは、これで終わりです! レン!」
まただ、またレイの口調が少し変わった。何時もはレンさんというところを今はレンと呼び捨てにしていた。
明らかに戻ってきている。
だがそんなことより今現在の状況をどうするかだ!
まぁ一応対応術はあるのだが……。
「ちっ、こうなったらやるしかねぇ!」
一か八かの対応術だ!
俺は即死魔法に向かって手を突き出し呪文を唱えた!
「よしっ! 覚悟を決めるぜ!」
「ふんっ、今さら何をしても遅いのですよ!」
「どうかなぁ?」
「ギエルディアデス!(破壊せよ!)」
「なっ!」
呪文を唱えた直後レイの魔法は『ガシャンっ!』という音と共に消え去った!
どうやら成功したようだ、破壊できてよかったぁ。
「あわわわわ! 私の魔法が消されてしまいました!」
「あはは、どうだレイ! 俺の呪文は」
「まずいです、魔法をも破壊する魔法を使われては私達は勝てません!」
「ふふふ、どうやら手詰まりのようだな! ではお仕置きタイムだぜ水無月レイ!」
「はわぁあああああ!」
どうしましょうどうしましょう!
このままじゃ私のく、首がっ! 首が飛ばされて晒し首にされる!
「………………。」
う~む、水無月レイの自信がなくなっている。
私を握り締める手の力が緩みつつあり、そして震えている。
水無月レイの記憶は少し戻ってきてはいるが……。
これは私達の予想外の出来事、だがいくら戻りつつあっても水無月レイの心はまだまだ子供、自信を砕かれた心は恐怖を抱く。
そしてその恐怖は戦いの邪魔になる。
「水無月しっかりしなさい! このまま恐怖で動けなくなれば本当に死ぬわよ!」
「で、でも! でも! 魔法が効かないんじゃ私達に勝ち目がないです!」
「落ち着きなさい! 貴女は魔法以外にも体術や剣術を持っているわ、それで戦えばいいじゃない!」
「そうですけど、長期戦になれば私は体力がないのでやられちゃいます!」
「大丈夫、自信を持ちなさい水無月レイ! たしかに貴女は昔アイツらにやられたことがあるわ」
「だったら………。」
「でもその時は貴女一人だった」
「だが今は違う! レイという存在が三人いる状況よ? これなら勝てるわよ」
「……………。」
「ああもう! とにかく行きなさい! レンが来るわよ!」
「はわっ!?」
ガインッ!
「やっぱり隙をついた攻撃をしても防がれちゃうか」
「水無月、今は戦いに集中しなさい! 何度も言うけどその恐怖が敗因になるわよ!」
「はいっ! たぁあああああ!」
私はレンさんの剣を剣で押すような形で弾いた!
「はぁ~はぁ~ 私は負けられないのですレンさん、私は記憶を取り戻して目的を達成しないといけないのです! なぜかは分かりませんがそんな気がするのです」
そう、こんなところで恐怖を抱いている暇はありません。
私は必ずレンさん達に勝利して先に進まないといけないのです!
それが『あの子達を護ること』に繋がるのですから!
レン君が戦っている一方で私は五月雨レイの姿をしている奴と戦っていた。
正直かなり強い相手だ、魔法はあまり使わないようだがパンチの威力が半端ない!
さっきこっちに来られた時に一発殴られてしまいかなりの距離まで吹っ飛ばされてしまった!
幸い防御壁を展開していたから軽傷で済んだけど、レン君からだいぶ離れてしまった。
「くそう、これじゃあレン君を援護できない! 大丈夫かなぁレン君」
ザッザッザッザッザ
くっ、相変わらず無表情でこちらに歩いてくる。
そのうえ言葉を発さないからすごく不気味で思考が読めない最悪の敵だ!
「おいお前、何か喋れよ! さっきからすごく不気味なんだよ!」
「……………。」
タッタッタッタッタっ!
うわっ!? アイツ急に拳をかまえた状態で走ってきたぞ! しかも速い!
ゴスッ!
「かはっ?! うぅ……おえぇええ」
痛い……思いっきりみぞおちに入った。気持ち悪い…吐きそう………。
だが私は大魔導士エルマ! こんなところで吐いている場合じゃない!
というか戦い中に嘔吐したなんてレン君に知られたら女としても魔女としても終わってしまう!
「はぁ~ はぁ~ 中々重い一撃じゃないか、げほげほっ……結構きいたわ」
「……………。」
「これだけの事をしてくれたんだ、こっちもたっぷりとお返ししないとね♪」
「インフェルノバスター!(破壊の業火!)」
この魔法を唱えると思い出すなぁ、レン君と初めて出会った時のことを。
あの時私はレン君にお灸をすえてやろうと思い魔法を放った、でも殺すつもりはなかったから手加減をしたんだっけ。
「まぁ、お前は殺すつもりだから本気で殺るけどさぁ」
「いいよなぁ? お前は優しいレン君を裏切ったんだからなぁ、今度こそ容赦なくお前を消してやるっ!」
「破壊の業火よアイツの身体を燃やし尽くせ!」
魔法で出現した複数の業火は五月雨レイの姿をした奴に向かって飛んで行った。
そして五月雨レイの姿をした奴――クローンの身体に業火が集まり燃やした!
「あはははは、どうだクローン体! もうお前はお終いさぁ」
「………………。」
ふふふ、どうやら攻撃がけっこうきいているようなのか身動きが取れなくなっているぞ!このまま燃え尽きてしまえ!
「…………………フっ」
何だ、今アイツ笑ったのか? 今まで無表情だった奴が突然笑ったのか?
まさか攻撃がきいてないのか?! いやそんなはずはない!
あの魔法はかなり高レベルな魔法だ、きいてないはずがない!
それに身動きが取れないのが何よりの証拠! だが今の反応はいったい……。
「………ふふふ、おバカな魔女さんね。この程度の魔法で勝ち誇っているのだから」
「なんだって!? こいつ今喋ったのか?! い、いやそれよりこの程度だって?!」
「そうよ、この程度よ。この程度の魔法なら私にとってはお遊び程度よ♪」
「何を言ってるんだこいつ、遊びだって?」
そんなはずはない、私は大魔導士だぞ! 魔法が効かないなんてありえない!
「ふふふ、混乱しているわね……ならば現実を見せてあげる」
「ウォルテムル(水流よ我を守れ)」
プシュ………。
「なにっ!? あいつ自分のまわりに水流を纏わせて炎を消しやがっただと!」
「しかも火傷一つせずにピンピンしていやがる!」
「フフフ……さぁてと、今度は私の番ね」
「うっ………。」
「ステリタス(ステータスを向上せよ)」
「うぅ、身体能力を強化する呪文かぁ……。」
「じゃあいくわよ大魔導師! その可愛らしい身体をボコボコにしてあげる!」
「はぁあっ!」
「やばい! 避けないと!」
私は急いで身体を捻るような体勢でクローンの攻撃をかわした、そしてかわされた拳は後ろにあった木に『ドゴンっ!』という音を放ちながら直撃して木を折った!
木をへし折った…だと? アイツ私をボコボコにすると言ったのにあんなパンチくらったものならお腹に風穴が開いてジ・エンドなんだけど。
「あらら避けられちゃったわね、ざ~んねん♪」
「何が残念だっ! ボコボコにするんじゃなかったのか」
「そうねぇ、運が良くてボコボコにしてなぶり殺し、悪くて一撃殺し、どんな殺しかたかは運次第ということで♪」
「運次第だって?! こいつサイコパスだ!」
「サイコパスでけっこう! 戦いに手段を選ぶことは不要なのよ!」
うぐぐぐ……確かにこいつの言うとおりだ…………。
戦いに手段は不要…だが………。
考え方が鬼畜だ!
「はぁ~ 貴女さっきから戦いに不要な感情を出しているわね、それじゃあ戦いにならないのだけど」
「誰のせいだと思っているんだ、この鬼畜!」
「貴女でしょ? だって私はそんな事を考えて戦えなんて一言も言ってない、むしろ不要だと言っている。だが貴女は考えながら戦っている……。つまり貴女が勝手にやっているだけだから私には関係ない」
「ぬあああああ! もぉういいっ! 話は終わりだ!覚悟しろよ! この偽者魔女!」
「偽者ね……果たして今この状態では誰が本物かなんて分からないわね」
「まぁ私が偽者だろうがやることは一つ、貴女を倒せばいいと言うことだけ!」
水無月が私を使ってレンと戦ってから数十分経過しているがまだ決着がつかない。
エルマがいなくなればこいつなんてあっという間で倒せると思ったけど意外としぶとくそして強い。
そのうえこちらの体力は少なくなりつつある状態、早いとこ倒さないと水無月の言うとおりこちらが負けてしまうわ。
早く、早くしないと。エルマがいないうちに倒さないと!
「……あれ? よく考えたら今エルマがいないと言うことは私が造り出したクローン体もいない…というかここから離れた場所にいると言うこと」
「まずい、そっちの方がもっとまずい!」
「どうしたんですか五月雨さん? 急に大きな声出して」
「水無月レイ、今すぐにクローン体のところまで走りなさい!」
「え? でもレンさんの始末は……。」
「いいから急ぎなさい!」
「ひゃいっ!」
タッタッタッタ
「あっ! 待ちやがれ!」
タッタッタッタ
「五月雨さんレンさんが追いかけてきますよ」
「ほっておきなさい、それよりもクローン体を追いかけなさい!あれをほおっておくと厄介なことになるわよ」
「厄介なことってなんですか?」
「意思を持ちこちらに襲い掛かって来るかもということよ」
「にょえ?」
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