★意思を持ち始めた魔女様のクローン★

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★意思を持ち始めた魔女様のクローン★

 フフフフ、どうやら先程までなかった意思というものが私に芽生えてきたようね。 エルマの言うとおり私は五月雨レイのクローン、悪く言えば偽物だった。 だけど今は記憶も意思も全てある。 そして身体も五月雨レイの時そのものだ、どう考えても水無月レイの状態である五月雨レイよりは本物に近い……いや、本物かしら? ならばやることは一つ、五月雨レイはこの世に二人もいらないから水無月レイには消えてもらわないと。 そしてこの私が娘たちを護るの、より強くなったこの私が! 「あははははは!」 「な、なんだこいつ、急に笑い出して頭でもおかしくなったのか?」 「フフフフ……別におかしくなっていないわよ、大魔導士さん♪ただいいことを思いついただけよ」 「いいことだと?」 「そう、いいこと。だからもう貴女の相手はしていられないわ、戦って倒せばメリットがある相手を見つけたから」 「それってまさかレン君のことか!」 「レン君? そんなものに用はないわ」 「じゃあいったい誰のことだ!」 「誰ってそれは―――」 ザザザザザザっ! 「どうやら私の獲物が来たようね」 「………?」 な、なんだこのクローン体、私に背を向けて森の木々の方向を向いたぞ。 まるで私なんか眼中にもないといわんばかりに。 そもそも私とレン君意外に誰が敵なんだ? 分からない、こいつは本体もクローン体もよく分からない性格をしているからな。 「さぁてと、巻き込まれたくないのなら下がりなさい大魔導士エルマ」 「お前いったい何を言って―――」 やはりこいつの思考は全く読めない、考え方がぶっ飛んでいるからな! だがしかし、こいつの言う獲物とはいったい誰のことだ? タッタッタッタ! く、来る! こちらに全速力で走ってくる! 音から察するにこちらに向かってきている者の距離は十メートル、もうじきご対面だ! タッタッタッタッタ! 「さぁ来なさい! 水無月レイ! 貴女が本物ならこの私を打ち倒してみなさい!」 クローン体が『倒してみなさいと』言った直後森の木々から水無月レイが飛び出してきた! そしてその飛び出してきたレイに対してクローン体が攻撃をしかけた! 「水無月レイ、くらいなさい!」 クローン体は私にくらわせてきた大木をもへし折る怪力パンチを水無月レイ――あぁもうめんどくさいから水無月に向けて放った! 「ふえぁあああ!? 何でクローンさんが私に向かってパンチを繰り出してくるんですか!」 パンチを放たれた水無月は攻撃をぎりぎりかわしそして困惑していた。 まぁ当然と言えば当然の事だが。 「ちっ、遅かったか……水無月、そのクローンはもう味方じゃない、敵よ!」 「敵ですか?! でも何でこんなことに!」 「こちらに来るとき話したでしょ? 意思を持つかもって、つまりそういう事よ」 「でも何で意思を持ったからって攻撃してくるんですか?」 「そんなの貴女の性格が歪んでいるから考え方も歪んでいるということよ」 「ひどいっ! 私はそんなに歪んでないと思うんだけどなぁ」 アイツ意外と器用だな、クローン体の剛速球のパンチをかわしながら喋っていやがる。 だがこれは都合がいいぞ、仲間割れしているうちにレン君と合流して一旦退却しないとまず。 だけどどうやってこの場を離れるか……クローン体はともかく 水無月は私のことを逃がすつもりはないだろうし。 う~む、何かチャンスはないものかぁ。 「五月雨さんどうしましょう、このままじゃやられてしまいます!」 「平常心でいなさい水無月レイ! 相手の動きをよく観察して攻撃を仕掛ければ大丈夫よ」 「うぅぅ、他人事だと思ってぇ~」 「他人事だとは思ってないわよ! 貴女が死ねば私もどうなるか分からないもの」 よしっ! 今がチャンスだ! 三、二、一! レン君の所までダッシュだ! ダダダダダ! 「あっ! 五月雨さん、エルマさんが逃げますよ!」 「放っておきなさいそんな奴、それより目の前の敵に集中しなさい!この裏切り者を消し去りなさい!」 「裏切り者だなんて人聞き悪いじゃない、私はただ五月雨の意思を持って動き出しているだけなのに」 「ならば私達に従いなさい! オリジナルはこの水無月レイであって貴女は偽物なのよ? 娘を護る事はこの子に任せて貴女は貴女の役割を果たしなさい!」 「嫌よ! 私は私の意思で動いているの! 私の邪魔をする者は誰であろうと許さない!」 あぁ~ これは完全に意思を持っているわね、もうこの状態だと再び操る事は出来ない……やはり倒さなくてはならないか。 「水無月レイ……分かっているとは思うけどアイツの攻撃は一発でもくらえば貴女の骨は砕けるから注意しなさい」 「わ、わかっていますよぉ、わかっていますから怖いこと言わないでください!」 「ならばいいわ、じゃあさっさとあの裏切り者を倒すわよ!」 「はいっ!」 とは言ったもののやっぱり怖いです。私は一度あのクローンに負けてますから 今回勝てるかどうか不安です。 「……………。」 水無月は正直前にクローンに敗れたことがあるから少し不安だけどそれでもしょうがない、もう戦って勝たないといけないわ。 「フフフフ……。」 二人とも私を恐れているわね。当然ね、私はこの中の誰よりも五月雨レイに近くそして強い。私の勝利は揺るがないわ。 そして先制攻撃をして速攻で始末してあげる! 「はっ! 私を構えなさい水無月、攻撃が来るわよ!」 「いくわよ! その華奢な身体を砕いてやるわ!」 「はわぁああ!」 私は五月雨さんの指示に従い剣を横に構えてクローンの攻撃を防いだ。 でも一発一発がとてもおもい攻撃です、体勢を崩しそうになります。 「フンっ! どうやら最初の攻撃は防がれてしまったようね、それじゃあこれならどうかしら?」 「今度は何をする気なんですか」 「とっておきの魔法をプレゼントしてあげるだけよ♪」 「はわっ! 何ですか、とっておきの魔法って!?」 「これよ! セバイルド・オブ・ザ・タイム(過去の時よ、分離して具現化せよ)」 「あわわわわ、クローンが三人に増えてしまいました!」 「そしてさらに、デリエスル(生命活動を停止せよ)」 ギャオン! 「そんなっ!? 即死魔法を三人同時に放ってくるなんてずるいです!」 「あははははは! さぁ、本物は死になさい!」 「三方向から即死魔法が飛んできます! どどどどうしましょう五月雨さん!」 「落ち着きなさい、どう考えても今の貴女じゃ回避は不可能なのだからレンが貴女にやってきたように破壊魔法で相殺するしかないわ」 「破壊魔法ですか? でも私は知らな――」 「つべこべ言わずに従いなさい! 死にたいの?」 「ひゃい! 分かりました!」 「よしっ! ならばさっさと魔法を放ちなさい! 敵の魔法が二メートル先まで来ているのよ!」 「分かりました、やってみます!」 魔法を成功させないと命はない、そう考えると怖いですけどやるしかないです! 「いきます! ギエルディアデス(破壊せよ)」 成功させる、成功させる! 成功しないとやられちゃう! ガシャン! 「なんですって!?」 やったぁ! 破壊魔法が成功して敵の魔法が消えました。 これで私の勝利です! 「そ、そんな、私の即死魔法が………。」 「フフフフフ、どうですか! これでもう貴女なんて怖くありません!」 「ぐぬぬぬぬ………。」 この反応、もう魔法や技は尽きたと見えました、これならば勝てます。 「さぁ、覚悟してください!」 「……フッ、フフフフフ、あははははは!」 「な、何ですか? 急に笑い出して、おかしくなったのですか?」 「な~んてね♪ 私がこの程度なわけないでしょ?」 「……………。」 「水無月レイ、やはり貴女はまだまだ子供ね、すぐに油断する」 「油断なんてしてません。ただ私は貴女に勝てるのを確信しただけです」 「それが油断なのよ、こちらが手加減しているからって図に乗らないでよね」 「手加減って、即死魔法まで出しておいてそんなはったりをしても無駄ですよ? 」 「見せてあげるわよ、私の本気を!」 「デリエスル(生命活動を停止せよ)」 ギャオン! 「何度やっても無駄ですよ、また破壊魔法でっ!」 「あまいっ! クロメリア!(魔法を複製せよ!)」 ブンっ! えぇ!? クローンがクロメリアと唱えたとたんに三つの即死魔法がそれぞれ五つずつに増えて飛んできた! しかも私と魔法の距離がわずか一メートルのところで! 「きゃぁあああああ!」 「うふふふふ♪ さようなら、オリジナル」  現在俺はレイを追いかけて森を走っていたが彼女を見失い森の中で迷っていた。 おまけにエルマの姿も見えないからこんな森の中に独りぼっちというわけだ。 「はははは、やばいじゃん……早いとこエルマと合流しないと」 だがどうするか、正直この中でエルマを見つけるなんて自信ないぞ。 闇雲に探しても見つかるわけないし何か人発見機的なアイテムあったかな。 「う~ん、何か~ 何か~」 「………あっ! そうだこれがあった」 「人探しの宝玉、これでエルマがいる方角が分かるぞ」 「それじゃあいくぜ、エルマはどこだぁ~」 「ムムムムム~ よしよし宝玉の中に矢印が出てきたぞ」 「どうやら矢印の向いている方向から察するにエルマは左の方角にいるようだ」 「よしっ! ではエルマのところまで突っ走っていくぜ!」 「おりゃああああああ!」 進め、進め、レイに見つかる前にエルマのところへ! たとえ疲れても走り続けるんだ、エルマが見つかるまで。 走って走ってどんどんと進むんだ! タッタッタッタッタ ん? なんだ? 向こうからこちらに向かって走ってくる音がするぞ。 もしかしてエルマか? ならば好都合だが一応用心はしておいたほうがいいか。 万が一こちらに走ってきているのがレイだったら確実に油断は命取りだからな。 タッタッタッタッタ! どんどんと足音が大きくなる、たぶんすぐそばまで近づいているんだろうな。 タッタッタッタッタ!! さてと、いよいよご対面だ! 一体足音の正体はどっちだ。 エルマか、それともレイか、どうだ! 視界を集中させ俺はこちらに来るものを見た。 すると見えたのは紫色の長髪に長い耳をした女の子がこちらに向かってきた。 どうやらこちらに向かってきていたのはエルマのようだ。 よかった、これで一安心だと思った。 そして足音の正体はエルマだとわかると彼女に話しかけた。 「エルマ無事だったか」 「うん、無事だよレン君! それよりレン君のほうは大丈夫だったかい?」 「俺は大丈夫だ、どういうわけか俺と戦っていたレイたちが急にどこかに行っちまったからな」 「そうか、無事なら何よりだ♪」 本当に、レン君が生きてくれててよかったよ。 「それはそうとエルマ、エルマが戦っていたレイのクローン体はどうしたんだ?もしかしてエルマが既にやっつけたのか?」 「いや、私はあのクローンを倒せなかったよ」 「そうか、じゃあまだあの三人はこの森をうろついているってことか」 「そのことなんだけどね、今頃そのレイたちは仲間割れしていると思うよ」 「え? 仲間割れ? なんでそう思うんだ?」 「それはレン君たちが戦っていたレイたちをクローン体が攻撃してたからだよ」 「えぇ!? 何でそんなことになっているんだ」 「詳しくは分からないけどどうやらクローン体が意思を持ち、オリジナルのレイに反抗し始めたみたいなんだ」 「なるほどね、じゃあもしかしたら敵が減るかもしれないな」 「そういうことだね。それでね、私は一旦撤退するべきだと思うんだ」 「ディアボロスの仇は討ちたいだろうけど今は退いたほうがいいと思うのだけど」 「…………そうだな、悔しいけど確かにその方がよさそうだ」 「ただディアボロスの身体は回収してあげないとさすがに可哀そうだ」 「わかった、じゃあディアボロスの身体のところまで移動するよ!」 「あぁ、頼むよエルマ」 「ワプル!(転送せよ!)」 エルマが呪文を唱えた瞬間一瞬でディアボロスの亡骸のところまでワープした。 「ディアボロス……暫く放置してて悪かったよ、だがもう大丈夫だ……これでお前を連れて帰り、お墓をたてて埋葬してあげるからな」 「よいしょっと」 俺はこれでお別れかと思いながらディアボロスを連れ帰るため抱き抱え、そして後ろを振り向いた。 だがその時俺は驚く光景、いや人物を見た! なんと死んだはずのディアボロスが半透明だけど目の前で仁王立ちしていたのだ! 「うわぁあああ!? ディアボロスが化けて出てきたああああ!」 「うるせぇ、間違いはねぇが言うな! 気分が悪くなる!」 「ああ悪かったよ、でも突然出てくれば誰でも驚くだろ?」 「なんたって死んだ人が目の前に突っ立っているんだから」 「そりゃあそうだが驚かれる方は傷つくんだ、生きているときはそんなに驚かれなかったのに………。」 「ごめん……でもどうして、ディアボロスは今幽霊なのか?」 「そういうことだな、私が死んだことに間違いはない……だけど!殺されたんだぞ、成仏なんて出来るわけない!」 「そうか……そうだよな………。」 「俺様がこの世に未練を残している理由は恐らくアイツが生きているせいだ!アイツを殺してやるまではこの怒りや悲しみは抑えられないっ!」 「だからお願いだ、アイツを殺すのに協力してよ。私は霊体だからあの女に触れることすら出来ないんだ!」 「わかったよ、だが今は撤退だ! 今すぐ殺しに行きたいだろうけどもう少しだけ我慢してくれ。正直この場所で戦っても敗北する可能性が高いからな」 「………いいだろう、お前だって死ぬのは嫌なはずだ、私はお前の考えにしたがう」 「よしっ! と言うわけだエルマ、急いで戻ろう」 「……………。」 なんだ? エルマのやつ聞こえてなかったのか? きょとんとした顔をして黙ったままだ。 「エルマ、聞こえてなかったのか? 急いで戻るぞ」 「……ねぇ、レン君………いったい誰と話しているんだい?」 「誰ってここにいるディアボロスに決まっているじゃないか」 まったくエルマは何をいっているのか、冗談にも程があるぞ。 でもエルマの顔をよく見ると何だか怯えた顔になってきているな。 心なしか震えてきているようにも見える。 「なぁエルマ、なんでそんなに震えているんだ? しかも変なこと言って」 「変なこと? 何言ってるんだ、さっきから変なことを言って私を怖がらせているのはレン君だろ!」 「変なことって何? 俺はありのままを言っただけだ」 「ありのままって、何もない方を見てぶつぶつと一人で喋った挙げ句に死んだディアボロスとお話をしていたと言うのがありのままなの?」 「えっ? そのとおりだけど、エルマもしかしてディアボロスの姿が見えないの?」 「見えてるよ、レン君が抱き抱えているじゃないか」 「いやそっちじゃなくてここにいる霊体のディアボロスの方」 「そんなものはいないよ、レン君の見ている幻だよ!」 「えぇえええ!?」 まじかよ、このディアボロスは幻なのか? 試しにもう一度ディアボロスに聞いてみるか。 「なぁディアボロス、お前は俺が見ている幻か?」 「ちげぇよバカ!」 はい、この口の悪さはディアボロスで間違いないです。 「どうやらエルマにはディアボロスの姿が見えてないようだ、これじゃあ信じてもらうのは難しいな」 「そうか……ならアイツには黙っておけ、余計な混乱は避けたいからな」 「よし、わかった」 ガクガクガク あぁ~ エルマさんこの状況が相当怖いんだな。 仕方がない、ここは俺の幻だったことにするか。 「あぁエルマ、どうやら俺は疲れているようだ、ごめんね怖がらせて」 「いいんだよレン君、ただ私はレン君のことが心配だっただけだから」 「そうか、それじゃあ今は家に帰り休息をとろうか♪」 「わかった、それじゃあ行こうか」 「ワプル!(転送せよ!)」 エルマの呪文によってまた一瞬で家に帰ってこれた。 これで一安心だと思ったのと同時に、森の中に今もいるレイたちは今頃どうしているのだろうと思った。 もしかしたら既に森を移動していて俺たちを殺しに来るかもと心配になったが今は余計なことは考えずに今は休息をとろうと考えた。 
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