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★異世界より現れし来訪者★
エルマの家に帰ってから一週間後、突然エルマの家の扉をノックする音が聞こえた。
そして少女と思われる声が扉の向こうから聞こえてきた。
「こんにちは、ここを開けてください」
俺はその声を聞き、こんな汚ったねぇ家に誰が来たのだろうと思いつつ扉を開けようとした。
だがその時、近くにいたエルマが扉を開けるのを怖い顔して待ったをかけた。
俺は何で? と言うような態度をした。するとエルマが小声で言葉を発した。
「殺し屋だったらヤバイからまだ開けないで」
そう彼女が言った。俺は何て物騒な世界に来てしまったのだろうと思った。
そして扉を開けないまま五分経過、その間扉を何回かノックはされていたが、家主の指示で開けなかった。
暫くするとノックの音は止まったようだが、代わりに啜り泣いているような声が聞こえてきた。
何だか罪悪感が出てきた。俺はエルマに向かって困った顔を向けた。
エルマも俺の意思を悟ったようで、『もういいよ』と言ってくれた。
扉を開ける許可を得た瞬間、俺は扉をすぐに開けてあげた。
外には十四歳位の長い髪をした白髪少女が体育座りをして泣いていた。
「やべぇ、完全に泣いてらっしゃる……。」
すごく罪悪感が出る、何て声をかけようかと少女を見ながら思ってると、俺がいることに気付いたのか顔をこちらに向けてきた。
そしてか細い声で俺に話しかけてきた。
「家の中に居れて……聞きたいことがあるの…。」
「いいよ、入りな」
ごめんね、泣くまで外に出してて。中に居る魔女が開けさせてくれなかったの。
それにしても、可愛い顔してたなぁ。スタイルは良いし、出るとこは出てるみたいな。
冷徹魔女のエルマさんとは大違いだな!ってなに考えてるんだ俺は、こんなこと考えてるなんてエルマと少女に知られたら何言われるか。
おっとそんな事より中に少女が入ったのなら扉を閉めなくちゃな。
俺は扉を閉めてからエルマたちの方を見た。すると泣き顔をした白髪美少女とエルマが向かい合っていた。
よく見ると少女はエルマとは身長が同じくらいの女の子で、黒い色をしたハムスター一匹とピーナッツクリーム色のハムスター一匹、合計二匹のハムスターを抱き抱えていた。
その姿を見て、エルマよりこの少女は愛らしいと思った。
………俺さっきからこればっかりだな、そろそろ会話してるようだし耳を傾けてみるか。
どうやら今少女はエルマの尋問をくらってるみたいだ。
「それで、私の家に何しにきた? まさか襲いに来たとは言わないよな?」
「違う、私は急にこの見知らぬ世界に飛ばされて何が何だか分からないから情報集めにきた。……三十分近く放置されたけど……。
うぐっ、ごめんなさい、それはエルマに言われて仕方なくやったことです。
「ふんっ、なんのアポも無しに突然やって来るから敵かもと思うのは当然!だからすぐに居れなかっただけだ!」
「普段から狙われるようなことしなければ安心して暮らせると思う」
「お黙りなさいっ! もう一回外に放置して泣かせるぞ!」
「えっ!? ……ごめんなさい、外はやめて……。」
可哀そうに、トラウマを植え付けられちゃったよ。半分俺のせいだけど。
「ふふ、聞き分けが良くてよろしい!」
そりゃあもう一度外に追い出すなんて言われれば言うこと聞くしかないだろうに。
だんだんエルマが魔女じゃなくて鬼に見えてきた。
「それじゃあ次の質問、何でこの家に情報収集しに来たの?」
「こちらの世界に来て適当に歩いてたらここにたどり着いた、ただそれだけ」
「なるほど、じゃあ次の質問。そのこちらを見ている生き物は何?」
「この子達はある家で飼われてた二匹のハムスター、レイとプチ」
「えっと、どっちがプチでどっちがレイ?」
「黒ハムがレイ、そしてもう一匹がプチ」
「何で一緒にいるの? それにハムスターって魔物なの?」
「この子達が死に魂だけになったときに飼い主である人間が私に託した、だから一緒にいる」
「それとこの子達は無害、魔物じゃない」
「へぇ、じゃあ次の質問ね」
エルマの奴、いくらこの子が謎の存在だからってさっきから質問攻めばかりだな。この子も段々疲れた
顔になってきてるし、何だか可哀そうになってくる。
しょうがない、ここは俺が出るか。
「なぁエルマ、もうその辺にしてあげなよ? あまりにも可哀そうだ」
「何? レン君はこの子を庇うの?」
「庇うというか見てられない」
「そんなに見たくないなら何処かに行ってれば?」
「エルマ頼むからさぁ、その子をあまり虐めないでやってくれ」
「……………はぁ、わかったわ、もうこれ以上この子に質問はしないわよ」
エルマに俺の気持ちが届いたのか承諾してくれた。これでこの子はもう大丈夫だ。
少女は少しほっとした顔をしていた。そして俺に顔を向けてペコリと一礼した。
俺も少女の方を向いて笑顔で会釈した。少女は俺が笑顔でいるためか、同じように笑顔になった。
そう言えばエルマに質問はやめるよう言った手前言いづらいがひとつ気になることがあったなぁ。
「そう言えば君の名前は何て言うの?
俺はレンでそっちの横暴魔女はエルマって言うのだが」
「誰が横暴魔女だ! 消し炭にするぞ!」
エルマの言葉は無視して俺は少女の回答を待った。
少女はキョトンとした顔を暫くしていたが、少ししてから口を開き始めた。
「私の名前は水無月レイです」
「レイちゃんか、十四歳くらいなのかなぁ?」
「うん、十四歳です」
「そうかぁ、よかったぁ、エルマみたいに見た目は子供でも歳がババァとかじゃ―ぐえっ!」
「レン君! ちょっとお話があるの! こっちへ来やがれ!」
「う、うわぁああああああああ!」
そうだった、ここにはエルマが居たんだった、忘れてた! 俺は後ろから服を捕まれて引きずられるように部屋の奥につれていかれた。
そして言うまでもなく、俺はエルマにお仕置きされた。レイちゃんのトラウマも増えた。
昨日の一件から時間が経ち、いつの間にか次の日を迎えていた。
ここでいつの間にかという言葉に疑問を抱くと思うが、いつの間にかという言葉を使うのには理由がある!
昨日あの後、実はエルマお仕置き部屋(エルマの部屋)に連れていかれ、そこで何時間ものお仕置きを受けていた!
その部屋には時計が無かったため時間が分からなかったが、お仕置きされている時、窓を見ると日が落ちて行き夜になり、また日が昇った。ということはお仕置きを受けながら次の日を迎えたということになり、その為いつの間にかという言葉を使った!
酷いだろ? お仕置きとはいえ、こんなに時間をかけてお仕置きするなんて!
何をされてたかなんて言いたくない! ちくしょう!
まぁそんなこともういいや、それよりこれからどうするか考えなくては!
何せ色々考え事が増えたからな。俺の異世界からの帰還の事、レイちゃんの事、そして最悪帰れなかった場合この世界でどうやって暮らすかとかな。
はぁ~ それにしても、あのゲートを渡る前にエルマが行ってみないと分からないとは言ってたが、まさか場所どころか時間軸まで行かないと分からないとは。
まぁでも、昨日エルマのお仕置き最中にエルマが言ってたな。
今回は違かったが落ち込まないでどんどん次元粒子を見つけてみな、何回かゲートを開けばもしかしたらレン君の居た世界に繋がるかもってな。
何だかんだであいつは良いやつなんだろうな。 お仕置きはマジでやばいが……。
ふぅ~ でもまぁ、エルマの言う通り希望を持って粒子探しをしますか!
さて、それじゃあ外に行くか。エルマは寝ているみたいだしそっとな。
俺は音をたてないよう扉を少しずつ開け、外に出た。
外は森に日光が射し、中々清々しい気分になる爽やかな光景だった。
「う~ん、いい天気だ! ここはキノコが生えているわりに空気がうまいからなぁ結構爽やかな気分になれる不思議な森だ!」
俺は背筋を伸ばし、それから下を見た。すると、レイちゃんが森の芝生の上にいた。
様子を見ると、しゃがんで何かを探しているようだった。少し気になったのでレイちゃんに声をかけた。
「お~い! そんなとこで何をしているんだぁ~」
突然声をかけられて驚いたのか、レイちゃんはビクッと体を震わしてからこちらを振り向いた。
「おはようございます、レンさん……。」
………可愛い! やっぱりレイちゃんはエルマと違って可愛い!
何ていうか、顔もそうだが性格がいい! エルマはツン! レイちゃんはふわっ、みたいな!
「おはようレイちゃん、そんなとこで何してるの?」
「調査をしているの、ここの植物は見たことがないものばかりだからどんなものか気になって」
「へぇ~ それで何か面白いものは見つかった?」
「うん、色々見つかったよ」
「そうなんだぁ、ちなみにどんなものが見つかったの?」
「虹色の草やクリスタル、それにキノコが見つかったよ」
「そうか、よかったね」
「うん♪」
いい笑顔で大変可愛い! そして年相応な純粋無垢な少女、そこもいい!
まずいなぁ、俺この子に出会ってからこればっかりだ。エルマに知られたら絶対ロリコンって馬鹿にされる。
おっといけない、俺は俺で粒子探しをするんだった。
「それじゃあ俺も探し物をするよ」
「うん、わかった、探し物が見つかるといいね」
「あぁ、そうだね……それじゃあ粒子を探しますか!」
俺は気合い十分な声をあげ、レイちゃんの隣で粒子探しを開始した!
数分前レン君が粒子を外に探しに出て行った時、私は起きていた。
最初は一緒に探そうかとも思ってたが、あれだけ過激なお仕置きを何時間もした手前どんな顔をして話しかければいいのか分からず布団から出られなかった。
「うぅ~ お仕置きしすぎたせいで自分の首を絞めることになるとは…。」
「でもあれはレン君が私のことをババァなんて言うからいけないのよ!」
「そうよ! だいたい被害者の私が何で気まずくならないといけないわけ?むしろあれだけで済ませてあげたのだから私は優しい! つまり悪くない!」
はぁ、でもやっぱりやりすぎたかな~ うぅ~ レン君怒ってないかなぁ~
駄目だ、自分の都合のいいようにとらえようとしても罪悪感が邪魔する。
きっと謝罪をしなければこのもやもやは消えない。
でも、謝れば私の威厳はズタズタに! それはプライドが許さない!
だけどそれだともやもやが消えない。あぁああ! 埒があかない!
私ってこんなに優柔不断だったんだ。
「……しょうがない、魔女のプライドをへし折ってあげますか」
魔女のプライドを護ってぎこちないなんて気持ちが落ち着かない。
ならそんなプライド捨てて楽になりたい。
そうと決まれば私の気が変わらないうちに行動するか!
私は自分の家を飛び出し、レン君の元へと走っていった。
走って走って走った! そしてあと数メートルのところでというとこで私はある光景を見た瞬間足を止めた。
何故止めたのか、それは私が立ち入りできないと思ったからだ。
私が見たと言う光景はレン君とあの白髪女が楽しそうに会話をして遊んでいたというものだった。
そんな状況のなか私が入れるわけない。それに、何故だか胸が苦しくなり、悲しくなり、涙が出てきた。
こんな顔、レン君たちに見せられない……もし見られたらそれこそ魔女の威厳に関わる。
何でこんなに悲しんだろう、この涙は何の涙?
…………これはもしかして、嫉妬? それとも他のなにか?
どちらにしてもこのエルマにこんな思いをさせて。
「レン君のバカ……。せいぜいその子と楽しく過ごしてればいいじゃん!」
私はそう一言呟き、フンっ! と鼻をならしてから家に帰っていった。
何だろう、今エルマが近くにいて俺たちを見てたような気がしたが、まぁ多分気のせいだろう。その証拠に周りを見てもエルマの姿が見えないしな。
それに、仮にここにいたとしたらエルマが黙っているはずがない。
さて、そろそろいい時間だし戻るか。
俺はレイちゃんにそろそろ帰るよ、と言おうとした。
だが言おうとした時、レイちゃんが呟いた一言に驚いた。
「ねぇレンさん、さっき木の影にエルマさんがいたけど何処に行っちゃったんだろうね」
「え? レイちゃん、今なんて? エルマがいたって言った?!」
「うん! 言ったよ! 木の影でこっちを見てたよ。それも泣きながら」
何…だと!? エルマが見てただって? しかも泣きながら? 何でだ?
と言うかエルマって泣くのか?!
いやだが待て、俺たちを見ながら泣いていたということは、何か面白すぎる事でもあって泣くほど笑ってた可能性があるな。
あいつ結構性格悪いとこあるし。
だが決めつけはよくないか……とりあえずレイちゃんにエルマがどんな顔をして泣いてたのか聞いてみるか。
「ねぇレイちゃん、エルマはどんな顔をして泣いていたんだ」
「ん~ 悲しそうな顔をしてたようにも見えたし、悔しそうな顔をしてたようにも見えたよ」
まじかよ! それってまずくないか?
エルマがそんな顔をするなんてよっぽどのことだぞ!
やはり今はまだ帰らない方がいいかな、いやだがそれはそれでまずいか。
う~ん、どうすればいいだろう。
俺は悩んだ、だってそうだろ?
一つでも選択や対応を誤れば俺の命はない、そんな状況で簡単に即決できるか!
だからしっかり考えなくてはいけない。
「う~ん、どうするか~」
さらに悩む俺、我ながら優柔不断だなと思った。
だがその時、俺が戸惑っているところを見かねたのかレイちゃんが俺に声を駆けてきた。
「レンさん、早く帰ってエルマさんと話をしてみましょう」
「あ~ うん、そうだな、何にせよ話をしてみないと分からないしな」
「うん♪ 早くいこ! レンさん」
レイちゃんは地面をぴょんぴょんしながらそういうと、エルマのもとに向かっていった。
俺もそのあとを追うよう走っていった。
それにしてもレイちゃんは本当に優しんだな、普通あれだけ虐められたらエルマの事を嫌ってもいいのに、心配してやるなんて。
流石は美少女、気配りもいいな。
おっとそんな事考えてる場合じゃない、レイちゃん思ったより足が早いから気を抜いてるとおいてかれそうだ。
早く追い付かないと。
それにせっかくレイちゃんの提案で勇気がわいたんだ、消えないうちに早くエルマの元に行こう!
俺はレイちゃんにおいてかれないように全力で走り、エルマの家へと向かった。
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