第一章

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 やっと改札口を抜けて、顔を上げる。 「はぁ……散々だな」  サラリーマン君のコートのポケットから定期を探すのに手間取ったし、乗り過ごしている追加の乗車賃も仕方なく俺が払った。駅前は真夜中だし、ホーム同様人っ子一人いないし閑散としている。風は強くて、頬に刺すように冷たかった。  駅前に交番……。実はないんだよね。田舎だからなのかな。都会には必ず駅に交番あるのになぁ。 「うう……めんどくさい」  俺は嘆きつつ、ロータリーにポツンと停車している一台のタクシーを見た。  もう、アレに乗って帰っちゃう? いつもは歩きで帰る道のり。タクシーなんて使わないけど……。もう交番に行くのもめんどくさい。俺も疲れたよ。 「よっ」  震えるサラリーマン君をおんぶし直して、タクシーへ近づいた。おじさんが俺の様子を見て、車から降りてきてくれる。 「大丈夫か? 寝てんのか?」 「あ、はぁ……すみません。ちょっと飲みすぎたみたいで……」 「忘年会の時期はよくあるこっちゃ」  おじさんにカバンを持ってもらい、どうにかサラリーマン君を背中から下ろす。 「ほら、あんた。乗って乗って」  サラリーマン君は無言のまま、ふらふらしながら後部座席へ四つん這いになって潜り込んだ。体を全部入れると、そのままシートへゴロンと横になってしまう。  あーあ。完全に泥酔だなぁ。 「この人大丈夫? 吐いたりしないかな?」 「ふははは……きっと大丈夫です」  だって、もう大量にリバースしちゃったし。  俺は仕方なく助手席へ座り、おじさんへ自分のアパートまでの道案内をした。
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