第一章

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 遠くで何か聞こえる。  泣いているみたいな。  なんだろう。夢……? じゃないな……。猫? ……風の音?  徐々に覚醒する意識。 「……ぐ、グスっ……ズッ……は、ぅグ……」  高いすすり泣きが聞こえなくなったと思ったら、今度は押し殺したような泣き声。一瞬、幽霊の声かとギクッとした。  あ、そうだ……サラリーマン君が居るんだっけ。  目を開き、ボウッと浮かび上がるベッドを見る。また微かに嗚咽が聞こえる。  部屋の中はひんやりとしていて、寝袋を開けると冷気に身体が震えた。上半身を起こし寝袋を全開にして、四つん這いでベッドへ近づく。 「…………」  サラリーマン君は眠ってた。寝ながら涙を流してる。布団をギュッと顔の前で掴み手繰り寄せてて、掴んでる手は力が入ってプルプルと震えてた。  うーん……。うなされてるのなら起こしてあげた方がいいのかなぁ? 「……よしよし。大丈夫だよ」  聞こえてるか分かんないけど、囁くように声をかけながら布団の上からサラリーマン君の体をポンポンした。布団を掴んでいた手がぎこちなく動いて、ポンポンしている俺の手の上にそっと乗る。     お?   
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