第一章

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 十時も過ぎると電車内の人影もまばらだ。  座れるのはラッキーだけど、みんなグッタリって感じに俯いて眠ってる。俺を含めたスーツ姿の男達とおねえさん達。そんなグッタリ集団を見てると余計に疲れちゃう。  携帯を触る気分でもなくて、なんとなくぼんやり周りを眺めていると、アナウンスが流れ加速していた電車が徐々に減速していった。  駅へ着くと大学生らしき若い男の子達が乗り込んでくる。ジーンズにファーのついた黒いダウンジャケットの二人。お喋りに夢中なのか空いてる席に目もくれず、ひとりはドア横のヘコミにもたれ、もうひとりはその男に覆いかぶさるように前へ立つ。ずいぶんと仲睦まじい感じ。ふたりで携帯を覗き込み楽しそうにクスクスと笑い合ってる。  そんな二人からガラス窓に映る自分へ視線を移した。  大学を卒業後、今の会社に入ってもう五年。彼女いない歴二年。最初の一年はフリーの時間を楽しんでた。その次の一年は同僚や先輩とキャバクラで遊んだ。でもキャバクラでお金を使うのもだんだん虚しくなってきた。もういいかなと思った矢先、一度だけ一緒にキャバクラへ行った先輩がゲイバーへ誘ってきた。  目新しさにホイホイついてった俺が悪いのかもしれないけど、酔った勢いで抜き合いなんてしちゃって……。  翌朝の嫌悪感というか、罪悪感といったら、それはもう酷かった。  先輩が爆睡してるのをいいことにアパートからこっそり逃げ出し、あとはずっと知らん顔を突き通した。先輩もなにも言ってこなかった。
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