第一章

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 顔を覗き込んだけど、苦しそうな表情。起きているのか寝ているのかわからない。すると向かい側のホームから駅員さんが駆けつけてきた。どうやら乗客の誰かが教えたらしい。  良かったとホッとして、タッチ交代しようと駅員さんを待つ。  寒いし、早く家に帰りたい。  足踏みしながら、駅員さんを待っていたら駅員さんがひどく怒った感じに言った。 「大丈夫ですか?」 「大丈夫じゃないみたいです」 「はぁ? 困ったなぁ~」 「吐いたけど、苦しそうなんですよ」  俺はベンチの手前に落ちているサラリーマン君のカバンを拾って駅員さんへ渡そうとした。でも駅員さんは受け取ってくれない。俺を軽くスルーして、サラリーマン君の耳元で呼びかけた。 「お客さん、お客さん、大丈夫ですか?」 「ん……ぅぅ……」  かすかに唸るだけのサラリーマン君を駅員さんが起こそうとする。でも駅員さんもサラリーマン君も同じくらいの体格でひとりじゃ無理そう。仕方なくサラリーマン君の鞄を肩にかけ、反対側からグラグラなサラリーマン君の腕を首に回し二人で支え起こした。駅員さんが頭を下げた。 「ご協力ありがとうございます」 「いえいえ」  数歩歩いた時だった。改札口側のホームから「あー!」とか「きゃー!」みたいな悲鳴が上がった。見れば、線路に白い紙袋が落ちてる。覗き込んでるおじいさんとおばあさん。手荷物が線路に落下してしまったようだ。駅員さんは「ちょっとすみません!」とサラリーマン君から手を離し、物凄い勢いで階段を駆け上がっていった。
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