届かない君をぼくは。

ぼくは君の。

　君はぼくをからかうことが好きだった。

「りんね、待ってよ・・・」
「嫌。学校遅れたらどうするの」
「じゃあぼくの鞄置いていってよ！」
「それも嫌」
　彼女はぼくの苦手な笑顔でにっこりと笑う。

　りんねとぼくが初めて会ったのは、彼女が転校して来た中３の時だった。
　クラスの中心が集まるようなグループの中でも一際目立っていて、そんな人と関わることのないぼくは、自分から彼女と関わるのを避けていた。
　関わってもいいことはないと思ったからだ。目立つ人たちのぼくに対する態度は大体一緒で、彼女も同じだろうとその時すでに察したからだ。
　でも何を間違えたのか、不意に彼女と関わりを持ってしまった。
　それが運の尽きで、その時からぼくは彼女にからかわれ続けている。

「よし！」
　ポケットに入れた携帯を半分だけ出して時間を確かめ、満足そうな表情の彼女。目標の時間を設定していたらしい。そのせいでぼくも走らされるはめになった。
　膝に手をつき、なんとか体力回復を図りつつ、彼女へと手を伸ばす。
「そろそろ鞄返して・・・」
「あ、るみ発見」
「え、ちょっ・・・」
　ぼくの制止を無視して友人の元へ走っていく彼女。まだぼくの鞄は彼女の手中にある。
　家を出てすぐ、彼女が立っていたことに驚いて呆気にとられていたその時、油断したぼくの手から彼女は鞄を奪い取った。そして、走り出した。
　迷惑な話だ。彼女もやっぱりそういう集団の一員だのだと理解しているつもりでも、わざわざ家まで来るなんて。
「お。やぁやぁ、ゆーたくんじゃないか」
「おはよう・・・るみさん」
　りんねの後ろから歩いて来たぼくを視界に入れたるみさんは、ぼくとりんねを交互に見て溜め息をついた。
「りんりんまたゆーたくんのこといじめてたんでしょー」
「・・・」
　ぼくが肩で息をしていて、りんねが笑顔。つまりぼくがいじめられている。るみさんの中ではそういう解釈になったのだと思う。
　りんねはめんどくさくなる前に逃走した。つまり、またぼくの鞄が遠のいてしまったのだ。
「お疲れーゆーたくん」
「お疲れ様です・・・」
　一礼して、またりんねを追って走る。