唐突だ。

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「は!」  いきなりるみさんが大声を出した。様子を見ていると落ち込み気味だった。一体今一瞬の間に何が起こったのだろうか。 「ごめんねゆーたくん・・・私、可愛いものを見ると飛びつきたくなる衝動に駆られて・・・」 「それは、直したほうがいいね」 「だよねー」  俯きながらブツブツと何か呟くるみさん。  自分でも悩んでるんだろうな、と何かを感じ取るぼく。  そしてぼーっとし続けるりゅうへい。  なんだこのカオスな状況は。  誰か助けてくれ・・・切実に。  ピンポーンと、誰かは居るであろう家の玄関のインターホンを鳴らす。  一向に人が来る気配がなくて心配になる。家にいるはずなんだけど・・・。  物音はしないかと扉に耳をつけて気を張ってみる。 「これ、渡してくれないか」 「・・・わかりました」  先生にりんねへの届け物を頼まれた。ゆえに誰かいてくれないと困るのです、とても。  あと少しだけ待ってみよう、とドアに背中をつけて座り込む。 『りんりんが休みなんて珍しいじゃん』  本当にその通りだと思った。  りんねは見たまんま、そのままで、とにかく元気で明るくて、体が弱いなんて言葉がとても似合わない。だからいつも油断してしまう。  疲れて辛そうな時も、りんねなら大丈夫だろうと、そう思ってしまうから彼女は無理をする。誰かに止めてもらわないと止まれない人間なのだと思う。ぼくが止めたとしても止まらないけれど。  でも今回は違う。予兆もないし、おそらくサボり。これはりんねにいじめられてきたぼくなりの勘だ。昨日のテンションの高さで何かが起きるとは、到底思えない。 「・・・」  物音一つしない。逆に不気味だ。  諦めて帰ることにする。とは言ってもすぐそばだし、いつだって会える。  これも油断だ。  彼女ならいつでもここにいるって、安心しすぎている。  彼女のいる空間が当たり前になってしまっているからこその油断。何も根拠はないのに。そうだと信じたがる。  何でも知っているわけじゃない彼女のこと。知ったかぶりをしたって無駄なのに。  自分を安心させるためにそう思おうとする。  このままじゃだめだと、わかっているはずなのに。
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