何事も。

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「何黙ってんの」 「・・・へ」  間を置いて間抜けな返事をする。間を置いたにもかかわらず飛び出した気の抜けた返しに、自分でも呆れた。 「何か喋ったら?てか聞きたいことあるんじゃないの?」  彼女はまるでぼくたちが一緒に帰っているかのように会話をしようとする。でも彼女との距離は5m以上離れていて、そんな二人が会話しようとするとそれぞれおかしな人にしか見られないのだ。  そんな事態になるのを恐れて、急いで隣になるようにスピードを速める。  聞きたいこと・・・。むしろ聞いてほしいんじゃないかと思うような話し方をする彼女に違和感を覚えた。なんだかいつもの彼女じゃない。 「一人で帰りたい気分なのかと思ってたから」 「そんな気分になんてなったことないけど」 「ぼくに言われても・・・」  りんねの気持ちはりんねにしかわからない。ぼくの気持ちが、彼女には伝わらないのと同じ。  話さないとわからないことだってある。でもぼくたちはきっと、話さないとわからないことに限って話さなかった。  お互いに知ることをセーブしてたから。それを変えようとは思わなかった。踏み込んでいい場所には限界がある。ぼくにはりんねのことを知る勇気はなかった。 「だから何か話してってば」  りんねはどうしてもぼくに話題を振ってほしいらしい。  休みの間に自分にあったことをわかってほしいって可能性が高い。「どうして休んだの?」とでも聞くのが正解なのか。  でもぼくはあえてそれを無視することに決めた。話したいなら自分から切り出せばいい。
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