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「お待たせ。いただきます」
「どーぞー」
ニコニコしている母はぼくの次に手を合わせて食べ始めた。
父さんのいない二人での食卓にはもうとっくに慣れた。長いことこうだからかもしれない。もしくは、母さんがとても明るいから。
必死に明るくしようとしているわけではない。素が明るいのだと思う。いつも太陽のような人だから、周りを照らしてくれて、ぼくの心にも灯りをくれる。
この人が母で良かったと、ぼくはしみじみそう思っている。面と向かって伝えるのは照れ臭いけれど。
ポケットに入れたケータイが振動している。ちらりと画面を見ると電話のようだった。
メールならば食べ終わってからにするけど、電話は急ぎの用事の場合が多いので席を外す。
「ごめん」と席を立つと母は笑顔で首を縦に振った。理解のある母を持つと説明の手間が省けるからありがたい。心の中で手を合わせる。
「もしもし?」
『ゆうた・・・』
相手はりんねだった。帰りから話していないけど、ぼくはさっき気持ちを落ち着けることに成功したので、今はもう元に戻っている。ただ、りんねはそうじゃないらしい。心なしか声が暗い。
「どうしたの」
質問してもしばらく無言の状態が続く。
ぼくの名前を呼んだのだから、間違い電話というわけではないと思う。
話すことをまとめているのかもしれない。それなら電話をかける前に済ませておいて欲しかった。
何もしてない手持ち無沙汰なときならまだしも、今は食事中なのだから。
『・・・今、会いたいって言ったら、来る?』
声が弱々しい。暗い夜道を一人で歩いて心細くなった時のように。
彼女はそうならないのかもしれないけど、一般的な女子はわかると思う。常に緊張して足元が不安で、得体のしれない何かに押しつぶされそうな気持ち。
今彼女のところに行けば、少しは支えになれるかもしれない。りんねが弱気な時にそばにいることができるのは、きっとそばにいるぼくだ。それ以外にきっとないんだ。
でも、タイミングが悪い。
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