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「後5分待ってくれたら。今ちょうどご飯中で・・・」
彼女が今誰かを必要としているように、母さんもそばにいる誰かの存在を望んでいる。みんな一人は嫌いだ。ぼくも例外じゃない。孤独は人を弱くさせる。
少し間が開いて、電話越しに彼女が笑った。
『冗談だよ、そんな本気にしないで』
「・・・うん」
電話を切ってポケットに入れる。
リビングを通過しながら、ぼくに気づいた母さんに一言断って玄関に向かう。
「ごめん、りんねのところ行ってくる。すぐ帰って来るから」
母さんは「行ってらっしゃい」と笑顔を見せた。やっぱり理解が早い。ぼくもそれぐらい全てを察することで出来たら、彼女を不安にさせることはなかったのかもしれない。
彼女がぼくをいじるトーン以外で冗談を言うのはおかしい。それぐらいぼくにも理解できるし、彼女が無意識にそうしているのだとすれば相当危ないのかもしれない。彼女は時々ぼくが思う以上に疲れていて、何か暗いものを背負いこんでいる。
「お邪魔します」
少し大きめの声でそう言うと、すぐにりんね母が奥から顔を覗かせた。
「お、ゆーたくん。りんねは部屋にいるよ」
「ありがとうございます」
しっかり頭を下げてお礼を言って、リビングを通り過ぎて突き当たりにある彼女の部屋を容赦なく開ける。
突然のことに驚いた彼女は椅子に座ったまま口を開けていた。手には携帯電話。ぼくとの電話を終えてそのままの状態なのだろうか。
「冗談じゃないでしょ」
訂正してもらいたい箇所を伝えると、やっと状況を飲み込んだらしい彼女が震える声でぼくを叱った。
「いや、そこじゃなくて。ノックなしに女子高校生の部屋に入るやつは変態だよ?」
「じゃあぼくがいない時に勝手に部屋にいる君は不法侵入だね」
「それとこれとは・・・」
「違わないよね?」
「・・・」
彼女の言い訳をきかずに黙らせる。
「これだけ隣人やってれば君が何を思ってるかとか今どんな気分かとはある程度わかるんだよ。だからどうせバレてるなら全部言えばいいだろ。今更隠そうとしたって遅いんだよ」
りんねは言い訳をする気はもうないらしい。
ぼくが言ったことで少しはりんねが楽になればいい。ぼくに八つ当たりするんじゃなく、不満に思うことを自分の口で発信できるようになればいい。ほかのどんなことよりその方法が、一番りんね自身納得できる方法だと思うから。
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