ぼくは君の。

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「遅いよゆうたー」 「だからりんねが・・・もういいや」  帰りもいじめられ続けて、ぼくのメンタルはボロボロだった。  登校と同様、彼女はぼくの鞄を掴みぼくの前を行く。なるべく急いで歩いているけど、気まぐれな彼女はたまに走ったりするので、その差は縮まることを知らない。  体育5の彼女とやる気だけでなんとか3をもらっているぼくの差は、男子と女子というだけで埋められるものではなかった。それはもう彼女と出会った頃からわかっていることで、だから体力を使い果たして倒れるようなことがないようにだけ、気を使っている。  運悪くぼくの住んでいるマンションの隣に住んでいる彼女。帰り道はほぼ一択であるから、わざわざ遠回りをする気力などないぼくにとって、これは恒例のことなのである。 「今日は・・・なんでもなーい」  笑顔で後ろを振り向いた後、なにもなかったことにしてまた走り出した彼女。  なんという気まぐれ・・・頑張れぼくの鞄。後少しだ。 「よしとうちゃーく!じゃ、また後でねー」  勝手に満足してぼくの鞄をパッと捨て家に入って行ったりんね。  急いで鞄を拾い、汚れを払いながら溜め息をつく。「また」ってことは家に遊びに来るつもりだ。・・・もしくは呼び出し。家が近いからって高校生にもなって男女が遊ぶのはどうなのだろうか・・・。こんなこと言ったら、りんねには笑われるんだろうな。  切なくなりつつドアに手をかける。中から声がして、開けた時ちょうど真正面に母が立っていた。 「あら、おかえり。母さん今から駅前に買い出しに行ってくるから。留守番よろしくね」  言うだけ言ってさっさと出て行ってしまった母。なんと忙しい・・・エプロン着けたままだったの気づいてるのかな。  今更気づいても、すでに姿は見えなかったので諦めた。恥ずかしいのは本人だけだけだからいいか。そう思うのは薄情なのだろうか。  深呼吸して家に入ると、もう夕飯の準備が始まっているようで、おいしそうな匂いがした。キッチンを覗いてみたけれど、なんの料理なのかはわからなかった。  ぼくはメニューを先に知らされるより、その時出てきた料理への驚きを楽しみにしたい方なので、そこより詮索はせずリビングに入った。  テレビはつけたままで、よほど急いでいたらしい母のことを思い出した。  エプロン・・・。
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