転機

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機械の少女は迷っていた。 吹雪にライアンが消えてから数分経ってもドアを閉めようとも追いかけることも選べずにいた。 高性能な聴音機関のお陰でライアンが戦いに行ったことは分かっていた。 その相手が自分を瀕死に追い込んだ相手だということも、 だからこそ脚が地面に縫い付けられているんじゃないかと錯覚するほど恐怖し動けずにいた。 彼なら、あんなにも立派な体躯をした彼ならなどと、 何処かで薄い根拠だと否定しながらも考えてしまう。 機械になった彼女は未だ迷っていた。 場面は戻り魔獣と対峙するライアン。 雪が吹き荒ぶ中で放たれた矢は寸分違わぬ狙いで顎の下、装甲の隙間に吸い込まれる。 だが矢は寸前で防がれる、 身体から放たれる勢いで射出された鉄管により。 姿勢を低くし、静かに警戒する魔獣の至る所から鉄管が這い出てくる。 その姿を見たライアンは遠い記憶を思い出す。 第四級魔獣 四足装獣 凄まじく堅牢な装甲を纏いながらも 装甲がない場所から自由に鉄管を繰り出し その巨大な体躯とスピードで全てを薙ぎ払う 戦う際は少数は必ず避け熟練の十数人の弓騎士で囲んで叩けと教官に教えられたことを。 数瞬の後ライアンは矢を素早く2本放つ。2本の矢は中でカーブし両脇腹を貫かんと迫るも それもまた同じく鉄管に弾かれてしまう。 それを見たライアンはこのままではどうあっても勝てないことを悟った、このままであれば。 踵を返しライアンはひた走る。 自身の庭である森に向かって 迷う機械の少女は森へ遠ざかっていく足音に 胸が締め付けられる思いであった。 この猛吹雪で弓など役に立つはずがない、 身体能力は圧倒的に格下 勝率は明らかに低く自殺も同然。 ライアンがなぜ私を庇うのか、 きっと私が原因だと理解しているはずなのに。 私を追い出せば済む話なのに、 見ず知らずの他人など放っておけばいいのに。 きっと理由は聞いても理解できないものだろう 貴方は何故、他人の為に命をかけるなど出来るのか… 何故…
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