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智隼見ているか。
お前の息子は、今………お前の“友達”に攫われた。
俺は悲しいよ。………………本当、悲しい。
「………西岡、どうしよう?」
陽太様が今にも泣きそうな目で見つめてくる。
俺は空を見上げた。
………ヘリの速度とはどの程度のものだったか。山田が保有しているヘリポート付きの建物を思い浮かべるが、………恐らく無意味だろう、すでに移動しているはずだ。………そもそも、この考え方が見当違いなんじゃないか?なんだ速度って、分かったところでなんだっていうんだ。移動手段なんて徒歩か車だ。追いつかないし、場所すら分からん。
西岡はただの使用人だった。
「おい………お前、大丈夫かよ?」
あれの愛人にまで心配されるとは俺はよっぽど酷い表情をしているんだろう。
「大丈夫、だよね?」
陽太様が同意を求める。俺が、ではなく広太が大丈夫だよね?という確認だ。その小さな姿が昔の広太に重なり俺の意識が悲しみから焦燥に変わる。
『何も心配いりません。この西岡におまかせ下さい』
そうあの子に言った過去の自分を殺したくなる。何がまかせろだ。結局お前は捕まったくせに、戻って来たときには全てが遅かったくせに。今も同じことを繰り返しているくせに!!!!俺は拳に力を込め自らの頬を殴った。
バンッ!!という破裂音が響く。
「お前何してんだよッ!?」と慄く二人に「自分に活を入れたのさ」と言葉代わりにプッ!と地面に血の混じった唾を吐き出した。口の中に鉄さびの味が広がる………目が覚めた気がした。
俺には、絶大な権力もなければ学もない………狂人になるほどの強い意思すらない。
どこまでも普通、体を鍛えるしか能がない脳筋だ。
だが、広太まで奪われてなるものか。
「大丈夫ですよ………………俺にまかせろ」
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