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星空に願いを
奴は負けを認めないと言わんばかりに僕を睨む。しかし、僕に両腕を掴まれていて少しも動けていない。背中を強く蹴って放すと、床に転がって痛がった。僕は彼女の縄を解いた。
「怖かった……」
「もう大丈夫」
優しく笑って彼女に言った。そして、奴の方を向く。
「これに懲りたら、もうこんなことするなよ」
奴は頷いた。
僕達は手を繋いで、並んで歩き出した。
「もう大丈夫」
不安そうに下を向く彼女に再度声をかける。
「僕が守るから」
彼女は横に首を振った。
「守られてばかりは嫌だよ」
僕はおかしくなって笑った。
「何言ってるの、最初は僕が守られてばかりだったでしょ。だから、その分、お返し」
彼女はようやく、柔らかく微笑んだ。
互いの姿が見えなくなるまで手を振りながら歩いて、僕らは別れた。
ゆっくり歩きながら、奴のことを考えていた。
奴は僕の双子の兄だ。彼女のことが好きだったのに僕に取られて悔しかったらしい。そもそも、僕がいじめられていた黒幕は奴だったらしい。彼女が僕のことを好きだと聞いてやったという。それが逆効果になり、僕と彼女は付き合うことになったのだ。
僕と奴の両親は離婚した。幼かった僕が母親につき、奴は父親についた。それで疎遠になっていたのだった。母親は離婚して苗字を戻したから、僕と奴の苗字は違う。
僕は藤木 颯。彼女は浅木 宙。
奴の名前は、青木 開(あおき かい)。
小さい頃は、僕らはお互い面白がったりしたものだ。3人とも苗字が木で終わること。名前が漢字一文字なこと。名前が陸海空で揃っていること。
楽しかった思い出は戻らないのだろうか。満天の星空を見上げてそう思う。
「あの頃みたいに戻れますように」
星空に向かって、願いを独りごちた。
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