嫌な予感

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「じゃあ、帰ろっか」 僕は彼女に言う。僕達は初々しく手を繋いで並んで帰る。 この間まで僕達の家は近かったのだが、彼女が引っ越してしまい離れ離れになった。とは言っても学校からの方面は一緒なので、途中までこうやって帰るというわけだ。 「じゃあね」 慣れた分岐点よりも早い、彼女との別れ。また明日の朝になれば会えるとわかりながら、寂しい気持ちになる。これを恋というのだろう。 僕達は付き合っている。最初は、僕がずっと助けられっぱなしだった。僕はクラスでいじめられていて、それを彼女が止めてくれたのだった。凄惨ないじめに介入して僕を救ってくれたその勇気は、僕のような小心者には計り得ない。家について、僕は制服を脱ぎ捨てた。薄い機械に幸せな日常を叩き込んでいると、家電が鳴り響いた。 「はい!」 僕は急いでそれに応える。なんだか嫌な予感がした。 というのも、前にもこうやって急に電話が掛かってきたことがあったのだ。そのときは彼女の家が火事になっていて、僕がない勇気を振り絞って彼女を助け出したというわけだった。 『藤木 颯(ふじき りく)か。おまえの彼女……浅木 宙(あさぎ そら)は頂いた。悔しかったら浅木が前に住んでいた家に来い』 予感は的中した。また彼女が危機にさらわれている。僕は、その電話の主の声に聞き覚えがあった。その声は、なにか思い出したくない記憶を呼び覚ますような感触だった。声の主と僕が知人だったとしたら、僕と彼女の名前を知っているのも腑に落ちた。
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