調理室にて

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「山下さん」 声の主は、クラスメイトでサッカー部員の伊藤 皓貴(ひろたか)。 「今日はチョコレートケーキなんだって?俺の分は ―――」 「・・・・・ないよ」 私は振り返ることなく答えた。 「えっ?山下さんが作ったやつは?」 「もうあげたの」 嘘ではなく、本当に私が作ったケーキはここに無い。 「・・・っ?!・・・・・・あげたって・・・・・・・・・」 伊藤くんは少し戸惑っているようだ。 そうなるのも仕方ない。 私が作るものは、いつも彼が食べているのだから。 「あー・・・それで、何してるんだよ。他の部員いないじゃん」 ヘラで掬ったチョコレートを中指に垂らして、それを口で軽く咥えながら振り返る。 「チョコの味見」 「は?」 「溶かしたチョコの甘さを調節してるの」 「ふーん。・・・・俺にもちょうだい」 言うと思った。
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