指先から、君になる。

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 女の子なら、男の子とのキスとか手を繋ぐとかはロマンじゃない?――なんて話をよく聞くが。私は正直、そういうのは得意じゃない。  電車でカップルが露骨にいちゃついて手を恋人繋ぎしてたりとか、肩を寄せあって歩いてるところとか、わかりやすく壁ドン体勢だったりとか――場所によってはちょくちょく見かけはするのだが。私は不愉快というより、何でそんなことが出来るのか不思議でならないのである。  それは、現在付き合っている彼氏がいるから、というのもあるのだろう。  高瀬啓。同じ職場の同僚。啓は営業で私は営業事務ってヤツをやっている。彼ら営業班の仕事をサポートするのが私の仕事だ。簡単に説明するなら、営業の仕事がスムーズに回るように商品の在庫管理をしたり、仕入れ情報を整理してデータにまとめたり――あとは電話対応も仕事、ということになるのだろうか。  啓の方が私より一年早く入った先輩だ。そして一年早いだけなのに物覚えが良くて、二年目の時点でめっちゃ頼りにされていたりする。小さな会社だから、一人一人の繋がりも密接だ。事務とはいえ営業のサポート職である私の仕事は、啓に教えてもらったことも少なくないのである。 ――ほんと、今でも酷いけど……あの頃は足を引っ張ってばっかりだったよなあ。  本日はデートにて、水族館からの帰りに電車に乗っているところである。二人並んで座る座席。少し疲れていたのだろう、啓はちょっぴりうとうとしているようだった。  人がたくさん降りる駅を通りすぎたばかりということもあって、車内に人影は疎らである。隣に座る啓のことを意識しないように意識しないようにと頑張っているのに、頑張れば頑張るほど考えてしまうのは彼のことばかりだ。  自慢じゃないが、私は不器用である。作文を書いたら三回見直しても誤字脱字の山になるくらい見逃しが多い。データ入力をしていてもノーミスで済ませられたことなど殆どないから大問題だ。そのたび啓にどれほど苦労をかけ――慰められ、熱心に仕事の失敗しにくいやり方をレクチャーされたことか知れない。  彼はのんびり屋でガサツな私とは全く真逆のタイプだった。真面目で、何をするにもキッチリしている。細かなことによく気付くし、それでいて注意の仕方が非常に優しい。二個年上の二十七歳。年齢よりもずっとしっかりしていて面倒見のいい彼に、私が惹かれるのは必然だったのかもしれなかった。
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