ナズナと電鈴

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 翌日、吉川は夜勤だった。夕方に出勤した吉川は点呼や検査をしてから電車に乗務した。深夜まで勤務した後、数時間仮眠を取り、二日目の昼頃に退社する。それが、いつものルーティーンだった。  ラッシュアワーも過ぎると混雑も少しは落ち着いてくる。電車がホームに近づき、吉川はブレーキを操作する。停止線ぴったりに停車して、吉川は息をつく。何気なく視線を向けた向かいのホーム、そこに古関小百合が立っているのが見えた。  白いコートにレモン色のワンピース、黒のストッキング。彼女は最後のデートに着てきた服と同じものを着ていた。  下りの電車が入ってきて、彼女の姿は消えてしまう。偶然だろうかと、吉川は思った。彼女の家は遠く、駅は最寄りでもない。ハンドルを握る手に知らず汗を掻いていた。
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