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翌朝、思いもよらない場所で古関小百合の姿を見る事になった。そこは吉川の家の近く。彼女は前の通りを、手に荷物もなく歩いていた。灰色のコートに緑のワンピース。今日の朝の占い、ラッキーカラーは黄色だった。
「待って」吉川は彼女を呼び止めた。
彼女は振り向き、吉川を真正面から見据えた。
「偶然ね。ちょっとこの辺りに用事があって」
「手ぶらで?」
彼女は押し黙り、誤魔化すように黒髪を耳に掛けた。
「この前会った時、気になったんだ」吉川は言った。「君は付き合ってた頃、必ずラッキーカラーの服を着るようにしてた。でも、この前も、今日もそうじゃない」
「人は変わるわ」
「それだけじゃない。俺が眼鏡に戻したのは君と別れてからだ。君は、俺の眼鏡姿を見た事がない。なのに君はそれを指摘しなかった」
彼女は何も言わなかった。
「君は、古関小百合じゃなくて、古関美由紀だろ?」
「言ったじゃない。人は変わるんだって」
「じゃあ、腰の黒子を見せてくれ。そこは変わらない筈だろ」
暫くの間があった。彼女は口を噤んだままだった。
「どうしてこんな事を? 小百合ちゃんは知ってるのか?」
「小百合は知らないわ」と、彼女は言った。「私は妹の願いが叶ったのか、見届けたかっただけ」
「どういう意味だ?」
「ここでは話せない」
吉川は側を通る通行人に目をやった。「いつだったらいい?」
「明日の12時、水嗚駅の東口で」
そう言って、真正面を見据えた彼女の顔は、やはり小百合にそっくりだった。白い肌に尖った唇。彼女は彼女の分身だった。
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