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勤務を終え、帰宅した時には午後も過ぎていた。家には一人きりだった。吉川はホームで見た彼女の姿を思い出す。別れて一年、互いに連絡を取り合う事はしなかった。
吉川はテーブルに置いた携帯を掴み取った。古関小百合の番号は消さずに残していた。
吉川は少し考え、それから発信ボタンを押した。
「豊くん?」電話に出た小百合の声は、一年前の印象そのままだった。「久しぶりね、どうしたの?」
「久しぶり」と、吉川は言った。「急に連絡してごめんね。プレゼントのお礼を言おうと思って」
「驚かせちゃった? そういうつもりじゃなかったんだけど」彼女は明るくそう言った。「実はね、送った手袋、去年のバレンタイン用に用意してたものだったんだ。でも、別れちゃったじゃない?」
「うん」
「だから、引き出しに入れたままにしてたんだ。でも、この前、タンスを掃除したら見つけちゃって。捨てるの勿体ないなと思ってたら、たまたま貴方の事を思い出して」
「俺は、ただの在庫処分か」
彼女は笑う。「ごめんね。深い意味はないの」
「そうだったんだ」
「あの手袋、気に入ってくれた? クッキーも」
「早速使わせてもらったよ。クッキーも美味しかった」
「良かった」
「そういえば君、昨日早川駅に居た?乗務中に、君の姿を見たような気がして」
「昨日は一日中家に居たわよ。久しぶりの休日だったから」
「そうか。その人、白いコートにレモン色のワンピースを着てて、君にそっくりだったから」
「じゃあ、それお姉ちゃんかもしれない。服の貸しっこしてるから」
「美由紀さんの方か。君達はそっくりだものね」
「そうね」と、彼女は言った。「ねえ、良かったら今度会わない? 折角の機会だし、近況報告もしたいし」
「いいよ。君はいつ空いてる?」と、吉川は答えていた。
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