Ⅰ 執事の目

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執事の朝は早い。 屋敷の誰より早く起床し、まだ暗い窓の外を見やる。 この一晩で、かなりの雪が積もったようだ。 後程、玄関の雪を片付けなければならない。 シャツのボタンは一番上まできっちり留めて、黒い制服に袖を通す。 蝋燭の灯りを頼りに、自室を後にする。 まだお休みになられている主を起こしてしまわぬよう、照明は点けない。 こうして静かに1日が始まる。 主の起床までに部屋を暖めねばならない。 一晩で冷え切った暖炉に火を灯す。 薪が燃えるパチパチという音が、まだ誰もいない広い部屋に響く。 主の履物を暖炉のすぐ傍に置く。 後程お部屋にお迎えに上がる頃には温かくなっているだろう。 朝食で使用する食器を磨き、テーブルにはシルクのクロスを掛ける。 椅子の並びを整え、季節の花のアレンジメントを飾る。 それにしても今日は冷え込む。 指先が悴み、吐く息は白い。 ナイフとフォークは暖めておこう。
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