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それからどれほどの時間泣き続けたのか。
嗚咽が収まり、呼吸が本来の規則を取り戻した頃、奥さんがそっと私にポケットティッシュを差し出してくれた。ありがたく受け取ると、急速に羞恥心が頭をもたげた。
「済みません、本当にご迷惑を……」
私は縮こまりながら謝罪の言葉を口にした。
「いえ、構いませんが……」――最初こそ笑い飛ばしてくれたものの、すぐに奥さんは戸惑いで顔を曇らせた。
「一体全体、どうなさったのですか。何があったんです?」
予測はしていたが、やはり答えに窮してしまった。
これは全て私の過去が原因となっているのだ。しかも極めて不埒な、忌むべき過去である。果たして口に出して良いことなのか、私は迷った。
しかし相手は、疑念と呼ぶにはあまりにも暖かな心配を以て私の言葉を待っている。私には奥さんに対しての申し訳なさよりも、何かに縋りたい気持ちがあったのかも知れない。
とにかく私は全ての因縁について話すより他になかった。
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