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アンナ
アンナは煤けたドレスの裾を揺らし
一セントを握りしめてパンを買いに出た
人と汚水で溢れかえる路地を
子猫みたく通り過ぎる
怖い顔だけど気の良いパン屋の女将さんと
焼き立てのパンの匂いを頭に浮かべて
大通りを駆け出した
馬車を走らす御者は
少しばかり急いでいた
大通りで出来得る限り馬を急かす
横の路地から樽が転がり出る
驚いた御者は慌てて手綱を引く
馬が急な方向転換に驚く
アンナはお腹を空かせて
夕飯を待つ弟妹達の為に走る
馬が暴れて
御者の手から手綱が離れる
馬は走る 走る
方向なんか
お構いなしに
走る
突如として溢れ出した人波と
悲鳴にアンナは立ち止まる
何があったのかと
波の先に目を向ける
御者は落ちまいと
馬を停めようと踏ん張って
手綱を探す
人の波が割れて
馬車を目にする
誰かの叫び声が聞こえる
やっとこ停まった馬車
ずり落ちた御者は這々の体で
手綱を探し当て御者台に戻り
いまだ荒ぶる馬を宥める
煤けたドレスの裾と
静かに赤く染まる地面を見て
誰かが叫んだ
跳ね飛んで
車輪みたいに転がる硬貨は
誰にも知られる事なく溝へ消えた
可哀想なアンナの話。
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