ただのクラスメイト

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 二階へ上がって自分の教室へと向かう。  A組からF組まであり、B組は階段から離れた奥の方に位置しているため他のクラスの前を通過していく。  各クラスの前を歩きながら窓越しに覗いてみるが勿論の事、誰もいない。  先日までの体育祭では朝から人で溢れかえっていたのに今は不気味なぐらい静かだ。  空も重い灰色のため廊下がいつもよりくすんで見えてしまう。  早歩きで2-Bの教室に到着し、滑りが悪い引き戸を開けて教室へ入る。  埃っぽい匂いが漂っているのでグラウンド側の窓を全開にした。  イヤホンから流れる曲に混ざって野球部の声が入ってくる。  青斗は少しだけ音量を上げて自分の席へ着いた。  廊下側の一番前の席。青斗の中では一番の特等席。目立たず且つ黒板もよく見える。  目が悪いと言って毎回この席を確保しているのだがこれは内緒だ。  学年一の秀才という事で周りからは羨望の眼差しを受け、一人でいても何も言われない地位をやっとのことで確立できたので変な席になって周りのクラスメイト達とのコミュニケーションを図らなければならないのは避けたかった。  鞄の中から分厚い参考書を取り出してノートに重要な単語を書き写していく。  勉強が好きというわけではない。叶えたい夢があるわけでもない。    ただ真っ新なノートと向き合って問題を解いている時だけすべての物から解放されている気がして楽になる。  それが身になって学年一位という地位も手に取れるのだから一石二鳥なのだ。
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