ただのクラスメイト

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 イヤホンから流れてくる曲に身を任せ、無心でペンを走らせる。  野球部の掛け声がどんどん大きくなっているがこれ以上音を上げると耳が痛くなるし集中できる範囲の音ではなくなってしまうのでグッと堪える。  クラスメイト達が来るまであと三十分以上はある。皆は八時を過ぎてからでないと学校には来ない。  これは半年以上過ごしてきてやっと見つけたのだ。  家で勉強すればいいのではと思う人も居ると思うのだが自宅はあまり好きではない。 「おはよー」  野球部の掛け声とは違う声が青斗の耳の届いてきたので顔を上げずに「おはよう」と返す。  何でもないただの挨拶のはずだが青斗は違和感を覚えた。  俺そんなに長い間勉強していたっけ?スマホの時計を見るがまだ七時四十分。クラスメイト達が来るには早すぎる。  たまたま早起きしてしまってやることもないし学校へ来ようと思ったのだろう、そうだ、そうに違いない。    顔を上げて辺りを見渡してみるが声を掛けてくれた人の姿は見当たらない。  ついでに言うと誰の机の上にも鞄が置いていない。  もう一つ怖いことを言ってしまうと青斗は教室に入ってきたとき後ろの扉はきちんと閉めた。  そのため開けるとなると立て付けが悪いのでギギッ大きな音を立てるのだ。  その音も聞こえてこなかった。前の扉は青斗の目の前にあるのでいくら集中していたからといっても開いた瞬間に気が付く。  イヤホンから流れてくる音が急激に遠くなっていく。野球部の掛け声なんてもう全く聞こえはしない。  声の主は一体誰だ。
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