ただのクラスメイト

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 学校の先生ではなかっただろうか。  各クラス様子を見て回っていて、青斗を見つけて挨拶だけしていなくなった可能性もある。  そうだ、この仮説が一番いいのではないか。いや、仮説ではない真実にしようそうしよう。  そうしたら扉の件はどうなる。前の扉から顔を覗かせれば確実に俺は気が付く。  後ろの扉からかと思ったが俺は確かに閉めた。  階段から近い方の扉は後ろの扉なのでほとんどの人はそちらから入ってくる。  自分だけの空間を作るように鍵まで掛けたい所だったがそんな事をしたら今日から話題に上がるの間違えなしなのでやめておいたのだ。    まず開けば黒板に爪を走らせたような耳障りな音が鳴り響くのだ。それに気が付かないほど集中していたのだろうか。  学年一位の秀才の俺が間違えるわけがないという思いと、閉めていたらどうやって声を掛けてきたのだという謎が青斗の中でせめぎ合う。  廊下からではなく教室の中から声が聞こえてきたのだ。  参考書の中にあるどんな難問よりもこれは難しいぞ。  イヤホンを外して席を立つ。背中は冷や汗でびっしょり濡れている。もう真冬が到来したのではないかというほどこの教室だけ異常に室温が低い気がする。  カチカチと壁掛け時計が音を立てて時を刻んでいる。時刻はまだ七時四十五分。大分時間が経ったかと思ったがまだ五分しか経っていない。  いつもならばこの時間に誰かが来たらイラつくのに今日は誰でもいいから早く来てくれと願うばかりだ。  いや、もう誰かが来ていて青斗を驚かそうとしているのかもしれない。  学年一位の秀才、クールボーイ、どんなことに対しても冷めきっていて面白みのないこの俺を誰かが陥れようとしているのかも知れない。  自分の中でものすごい勢いで妄想が生まれる。何もされていないのに勝手に被害妄想をしているやばいやつになっている。  ダメだダメだ、マイナス思考になるのは青斗の悪い癖だ。  冷静になれ、空元青斗。その鍛え抜かれた頭脳でこの状況を考え抜け。
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