泣き方がわからない

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 ー虹川が死んだ。  そのメッセージで一瞬のうちにグループメッセージは大荒れになった。  後藤先生が顧問を務めている野球部のクラスメイトからのメッセージだった。 ー嘘だろう。 ー今日もめちゃくちゃ元気だったよ。  トークは送らずじっとグループメッセージを眺めていると違う野球部のメンバーからメッセージが送られてきた。 クラスメイト達は各々メッセージを送り合って騒ぎ立てていた。そんなにも騒いでいるのに赤彦は全く参加してこない。  いつもならば即返信男の赤彦が出てこないという事はこれは嘘ではないという事を物語っていた。  赤彦はバイト帰りに道路に飛び出した子供を助けようとして車に引かれたらしい。  お人好しの赤彦らしいと言ったらいけないのだろうが、病気で死ぬより人助けをして亡くなるのは彼らしかった。  赤彦が風邪なんて引いたところは見たこともなかったから。  後藤先生は赤彦の母親と思われる人に話しかけていた。真っ黒な着物を身にまとい、悲壮感が彼女を包んでいる。赤彦の母親は青斗たちを見つけると深く頭を下げて弱弱しく微笑んだ。  赤彦の母親の周りには幼い子供たちが何人もいた。赤彦の兄妹だろうか?  全員目が腫れていて気力が抜けてしまっている。それもそうだろう。もう二度と会えないのだから。  最年長と思われれる中学生ぐらいの少女の制服のスカートを幼い兄妹たちがギュッと掴んでいる。  彼女だけ背筋を伸ばして赤彦の遺影を真っすぐに見つめている。  彼女から目が離せずにいると後藤先生は赤彦家族に深くお辞儀をしてから青斗たちの方へ戻ってきた。 「みんな、虹川に最期の挨拶に行くぞ。泣くのは今日だけにしよう。あいつが笑って天国に行けるように」  クラスメイト達は同意するように何度も深く頷いた。  青斗は頷く代わりに空を見た。赤彦がいるであろう青空に。  夏の太陽は赤彦の笑顔と同じぐらい眩しかった。     
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