死神に捧げる葬送曲

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「安心しろ。誰一人とて、逃がさない」 優しい金目が見られたのは一瞬。 指揮者が棒を振れば、葬送曲が奏でられて行く。 昂った音を鳴らす楽器も、喚き立てる楽器も、 死に物狂いで暴れる楽器も、その手にかかれば自由自在。 音が鳴り止むまで激しく、時には気楽に。 観客など誰一人として居ないのに、生き生きとしながら奏で続けられるそれは、夜闇を虚に包み込んだ。 血の池に溺れ、横たわる楽器の残骸。 全てが終わった、かのように思われた。刹那、 「い゛、命だけはっ……頼むっ……」 神に祈るような弱々しい音が彼の耳を掠めた。 何て、哀れな響きなのだろう。指揮棒はもう、動いてないと言うのに。 「死神の正体を知ったんだろ?」 怒気を孕んだ視線が男に降り掛かる。 けれど、男がそれに気付く筈もないのだ。 だって、彼は優しく微笑むだけなのだから。 「、あの女の事かっ……つ、月之宮――「言わせるか」 走らせた言葉が命取り。 びちゃり。血飛沫が彼を無惨に襲う。 真っ二つに割られた頭を見、滴る溜息。それが安堵故なのか、はたまた空虚故なのか。 煮え切らない感情が蟠り、心身にどしりと伸し掛かるのだ。 それでも、心に抱く彼女を想えば心地が良い。 血溜まりの匂いが充満した所で、死神がくれる幸福に勝るものなど彼には無く。 握り締めたロケット。それは短い葬送曲が終わった合図だ。 「闇底で眠れ……」 紅蓮の死神の名のもとに。 優しい天魔が囁くように吐いたそれを、死神自身が知る事はない。 ……END……
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