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「北埜さん、おめでとう」
新宿にある『Limelight』二号店で、真由稀の送別会が開かれた。銀座の本店よりも、多少カジュアルな内装で、ジャズの生演奏が入る日もある。
隣では優が微笑み、その奥では榊が嬉しそうに笑っているのが、自分との別れを喜んでいるようで少々気に食わないが、二人に応える。
「ありがとうございます。お二人には、お世話になりました。特に、桜木さんには」
予想通りにムッとする榊を見ると、クスッと笑みがこぼれた。
「冗談ですよ。榊さんには色々と刺激をもらいました。私のオリジナル『ナイトフォール』は、桜木さんにヒントをもらって、榊さんへのライバル心があったからこそ生まれたものだと思ってます」
少しだけ頬を染めた真由稀は、柄にもなく照れている自分に笑った。
「いつもそのくらい素直ならいいのに」
「もう、榊さんの、その本音がポロッと出るところが、イケメンなのにもったいないところですよね!」
「はあ?」
「あはははは!」
「おい、桜木! 笑いすぎだろ!」
真由稀のもう片方の隣では、速水がゆっくりとウィスキーを傾ける。心なしか、口の端が上がって見える。
他従業員は彼女に一言ずつ挨拶をし終えると、仲間内で飲んでいて、送別会というより、単なるお疲れ様会のように感じられた。
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