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「水割り……ですか?」
「そう。僕がママに頼んで入れてもらったんだよ。このウィスキーはね、昭和天皇がイギリスを訪れた時に、英国王室から贈られたんだよ。それ以来、日本では販売許可がおりたんだよ」
自慢気に語り始めた男の蘊蓄を聞くまでもなかった。
蓮華の祖父は、このウィスキーを飲む時は、ストレートである。
ブレンデッド・スコッチの中でも最高級のこの酒は、ストレートで飲むのがもっとも美味い。それ以外の飲み方はもったいない。
「きみ、水割りの作り方知らないの?」
蓮華は男の指示通りにロックグラスに氷を入れる。
この上等なウィスキーに氷や水を足すなど、冒涜しているような気分で胸が痛む。
水を注ぐ手が震えたが、出来上がったその『冒涜の水割り』を、男は満足そうに飲んでいる。
ウィスキー通だと言いながらも、ストレートで飲むローランド地方のスコッチにも、氷と水を注がせた。
そうであっても、蓮華は男性客の話を聞き、楽しそうに相槌を打つ同僚たちを真似た。
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