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いい気分になった男がカラオケを歌おうとして、「歌える?」と訊いた。
「ライヴでジャズを歌っていたこともありました」
「へえ! じゃあ歌ってみてよ!」
男が言うと、ママが遮った。
「お客様の楽しむお時間をいただいては……」
そうやってお断りするものなのかと、蓮華はインプットした。
男がひとりで歌い、途中でママも加わる。
二人の調子っ外れな歌声にはまたもやショックを受けた蓮華であったが、楽しい時間を過ごせるのなら、どんな歌でもいいのだと思い直し、にこやかに見守った。
数日経っても、相変わらず、ろくに仕事も教えられず、水割りの注文の時は、どのくらいの量が好きかを、いちいち客に尋ねる日々だった。
ある時、ママがカクテルをメニューに入れるとしたら、ベースのお酒は何がいいか、つまり、一種類で使い回しが出来るスピリッツを蓮華に尋ねた。
「ウォッカかジンでしょうか。ジンは、あたしは好きですけど、辛口でちょっとクセがあります。飲み慣れていない人にとっては、ウォッカの方がクセがなくて甘口のものも作れるので、受け入れやすいと思います。どちらも柑橘系のものと合わせると美味しいですよ」
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