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隣にいる優の、心配そうに彼女を見下ろす表情を、蓮華はしばらく見上げていた。
「スナックで働いてわかったんだけど、男でも女でも、普段頑張って強がっているからこそ、吐き出す場所も必要なんだと思ったの。だから、例え色眼鏡で見る人であっても、ちょっと性格が悪い人であっても、そういう人たちを排除しようとは思わないわ。誰でも受け入れたい。でも、それには、お店での空間を大事にしたいお客さんのことも考えたいから、マナーは守ってもらいたいとは思うわ」
優の表情が、ふっと安堵したように和らいだ。
「くつろげる場も、弱味を見せる場も、大人には必要だからね。そこがわかってくれてるなら、蓮ちゃんはマダムになれるかな」
蓮華の瞳も安心したと思うと、動くものを見つけた時の子猫のように、くるくると輝き始めた。
「あたしは『マダム』なんて気取ったりはしないわよ、『ママ』って気軽に呼んでもらえたらって思うわ」
「そうだね」と相槌を打った優の瞳も、面白そうに輝く。
黒い静かな波の音と、穏やかな風が二人の間を吹き抜けて行く。
「銀座は高級過ぎて……。あたしには、もう少し近付きやすい、自由な横浜が合ってると思うの。しょっちゅう海を見に来られるような、こんな感じのところがいいかなぁ」
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