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横浜に店を構える━━二人がそう決めてからは、それまでにすべきことをこなす日々だった。
スナックの仕事を横浜にも広げた蓮華は、日中の音楽事務所の仕事を辞め、引き継ぎに追われる。
優は、後に蓮華と店を出すことをオーナーである速水に打ち明け、『Limelight』のチーフ・バーテンダーには榊を起用して欲しいと願い出るが、速水は表情も変えずに応えた。
「お前がやれ」
「でも、榊は最初からここでずっとやっていくつもりだったんです」
「知っている。お前たちのどちらにも、チーフ・バーテンダーを任せても構わないと思っていた。お前が独立するならば、その前にチーフ・バーテンダーの仕事を経験しておいた方がいいだろう。それが水城さんへの私の恩義でもある」
街場のバーにいた速水がホテルのバーも経験しておきたかった時期があった。それを水城の口利きで叶ったと語った。
「榊には、お前の後にチーフ・バーテンダーを頼むことにする。私から話しておくから、余計な心配はしなくていい」
優は速水の心遣いに胸が熱くなり、何も言えずに頭を下げた。
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