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『Something』に、蓮華と優が揃って顔を出した。橘の弟子たちの最後のステージには間に合い、ほぼ一般客も帰った頃であった。
橘の弟子の一人と友人の秋川楓も、友情出演でキーボードを弾いていた。
楓は普段、台湾人とのハーフである男性ボーカリスト率いる、二〇歳前後の、いわゆるイケメンばかりで結成したバンドのキーボード兼作曲を担当していた。
橘が「あのボーカル、超上手いよな!」と言っているのが、蓮華たちにも聞こえた。
楓はピアノに座らされ、橘が蓮華と優を呼んだ。
「どうも何かが足りない気がして。思ったことがあったら言ってください」
そう言って、楓はジャズのバラードを弾き始めた。
一通り弾き終わると、優が、ペダルの踏み方を工夫することや、譜面通りではなく、ここはもたった弾き方の方がいい等と指摘した。
「優ちゃんにしては珍しく厳しいじゃない!」
蓮華がからかった。
「ついでにさっきの曲だけど、キーボードで金管楽器系の音色で弾く時は、なめらかじゃなくて、ノンレガートで一音ずつ充分に音を保ってから切って弾くと、本物らしく聴こえるようになるよ」
「どうせ僕は吹部出身じゃないよ」
少しむくれた楓に、優は微笑んだ。
「きみならセンスあるから絶対伝わると思って、気付いたことを言わせてもらったんだよ」
「じゃあ、弾いてみてくださいよ」
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