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優がキーボードを弾いてみせた。
「曲を作って打ち込みする時も、この弾き方を知って打ち込みするのとしないのとじゃ、聴く人が聴けばすぐにわかるものだよ」
ピアノに移ると「最近、練習サボってるからなぁ」と、緊張感のない様子で、楓の楽譜を見ながら、同じジャズのバラードを弾き始めた。
楓の顔色が変わる。
さらに、アドリブ部分は譜面と違っていた。
もたるというのも、どういうことか、楓にはなんとなく伝わった。
優が弾き終わると、楓が冷淡な調子で告げた。
「サビの前の小節、音が違ってましたよ。あと、アドリブでも時々コード以外の音を弾いてました」
「ははは、バレちゃったね」
突っかかっても手応えのない優には、楓もそれ以上何も言わず、優がカウンターで橘やマスターと話すのを、ずっと目で追っていた。
「優ちゃんが音楽のことでアドバイスするなんて、あたしの知る限りでは初めてよ。きみのこと、見込みがあると思ってるからだと思うわ。成長したかったら、優ちゃんに限らず、誰のアドバイスにも耳を傾けた方がいいわよ」
蓮華が微笑む。
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