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そんな突飛な話をにわかに信じられるワケがない。
ボクはただただ陽子を見つめるしかなかった。すると、彼女の姿がボヤけ始めた。正確には、ボヤけ始めたのは彼女の淡いピンクのブラウスとブルージーンズで…。それはやがて真っ白なドレスに変わった。あんぐりと口が開いているのが自分でもよくわかる。
「本当におめでとう。でも、さよならなの」
ボクの眉がピクリと動く。さよなら…?
「わたしはあなたの恋愛を成就させるためだけに、ここへ来たの。だから使命が終われば、あなたにわたしは必要ない」
必要ない?なにを言ってる?
頭の中は混乱しているが、胸の中は熱くなってくるのを感じる。
「恋のキューピットはみんなにやってくる。凄腕もいれば、わたしのような未熟者もいるけど…。そして役目を終えた時、キューピットと過ごした記憶を全て消去し、その人の前から消えるの」
陽子は言葉に詰まった。
悲しそうで…寂しそうで…。そして、苦しそうで…。
「あなたは今夜眠って、明日目が覚めるとわたしのことはすっかり忘れている。これは決まりなの。あなたの記憶に残ってちゃいけないの」
彼女の頬を一筋の涙がこぼれ落ちたのを、ボクは見逃さなかった。
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