0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「さよなら…。彼女と幸せになってね」
陽子の体が左右に揺れたかと思うと、その華奢な体が宙に浮いた。
ちょっと待って欲しい。
ちょっと待ってくれ!!
追いたいのに体が動かない。それは、外部からの力なのか、追ってはいけないという自らの無意識の力なのかわからなかった。
そうこうしているうちに、彼女はボクの手の届かないところまで行ってしまった。
そして陽子は上空からちらりとボクを見つめた後、一瞬にして消え去っていった。
いまボクはベッドの中にいる。
数分後か、数十分後か、それとも数時間後かには眠りに落ちるだろう。
まだ陽子との記憶は鮮明に思い出せる。
遊園地で無理やりジェットコースターに乗せられ、ずっと絶叫してたこと。
海に行ってサングラスをかけたまま寝てしまい、逆パンダになったこと。
ドライブ中、運転しながら熱唱しているのを隣の車に見られて、恥ずかしかったこと…。
どの場面でも、隣で笑っていてくれた陽子。
大学のキャンパスでもいつも二人一緒だったのに、噂にもならなかったのは彼女がそういう『存在』であり、そう思われない何かしらの力を働かせていたのかもしれない。
いつも明るく元気な陽子。
その全てが、朝になれば消えてしまうというのか。
陽子…。
明日、もう一度だけボクの前に姿を現して欲しい。
君の記憶がすっかり消えていて、気づかずにすれ違うかもしれない。
でも、ボクは君に気づく自信がある。
君の姿を見た途端に、全ての記憶を取り戻す自信がある。
ボクには君が必要なんだ。
だから、陽子…。
さようなら。
また明日。
最初のコメントを投稿しよう!