第一章)発した言葉が宙を舞う。

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そんな…。 真実が発覚した時のボクの第一声。 そういう場合に発するセリフとしては、いささか平凡過ぎるとは思うが、現実とはそんなものだ。 ボクはこの世に生を受けて、21年目にして初めて彼女ができた。 自己を含め、周りにいる友人たちからも『見た目はモテないタイプではない』という分析結果が出ていたのだが、なぜかあと一歩のところでフラれ続けてきた。 ツメが甘い。 デリカシーに欠ける。 女心がわからない。 そう言われてしまうと反論できないのが正直なところ。それにしたって、この連敗記録は尋常ではないと思い悩んできた。 それが、やっと!! 連敗記録が尋常でない分、彼女ができた喜びも尋常ではない。 いや。尋常では…なか…った。 まさか…アイツが…。 アイツというのは、同じ大学に通う陽子。 ボクがフラれる度に、いつもそばにいて元気づけてくれる。そして次の恋愛へと前向きにしてくれる優しい人。 ところが、ボクに彼女ができた時が陽子との別れの時だったんだ。 ボクは当然の如く、彼女ができたことをいの一番に陽子に知らせに走った。 待ち合わせはいつもの緑地公園。小さな池を見下ろす小高い丘の上で佇む陽子のもとへ、ボクは全速力で駆けていった。満面のニヤケ顔で。 陽子も満面の笑顔で「おめでとう!」と言ってくれた。 でも、たちまち陽子の笑顔は曇りはじめ、消え入りそうな声で 「ゴメンね」 と言った。 なぜ謝る? 聞き間違え? そんなボクの表情を読み取り、今度ははっきりと「ゴメンね」と繰り返した。 そして、意を決したように彼女はまっすぐにボクの目を見つめながら話し始めた。 「わたしは陽子じゃないの」 あ。そうなんですか。なんて話じゃない。 当然、そんなことは重々承知しているのだろう。陽子はボクの反応を待たずに、言葉を続けた。 「わたしの本当の姿は…あなたの恋愛を成就させるために愛の女神様から派遣された恋のキューピットなの」 もはや理解不能。思考停止。 「でもわたし…まだまだ新米で、上手く恋の矢を放てなくて。だから、あなたになかなか彼女ができなかったの。ごめんなさい。でも、やっとあなたに」 「えと…ありがとう」 ほんの少し思考回路接続。 自分が言ったセリフが宙を舞い、着地点を見つけられないままさ迷っている。 これは現実なのか?
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