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序章
秋晴れの青空が、高く広がっている。
蘇芳文弥は、緊張と興奮に胸を高鳴らせながら、第一志望校である昌泰大学の正門をくぐった。
オープンキャンパスが開催されている校内は、すでに多くの受験生で賑わっていた。
「ここが、昌泰大かぁ。うわぁ、写真では何回も見たけど、やっぱ実物はすげぇなぁ。なあ、蘇芳」
一緒に来校したクラスメイトの山田徹も、かなり興奮しているようだ。
山田と蘇芳は、ともに高校3年生で、昌泰大学を第一志望としていた。もっとも、蘇芳は文学部志望、山田は理工学部志望ではあるが。
受付で渡されたパンフレットを見ながら、山田が蘇芳の腕を掴んだ。
「化学研究会主催の実験コーナー、面白そうじゃん。行ってみようぜ」
「え? いや、僕、文学部志望なんだけど……」
「別にいいだろ。見学するくらい。行こうぜ」
山田は蘇芳の腕をぐいぐいと引っ張る。蘇芳もやむなく、一緒に実験コーナーに行くことにした。
「『オランダの涙』っていう、強化ガラスを作る実験だって。面白そうじゃね?」
――まあ、それだったら、大丈夫か。
蘇芳は安堵の吐息を漏らした。
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