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己
呪いなんてものを信じたことがないが、医者でさえそれを口にしたことが原因なのか、俺は気づけば家の近所にある神社の前に立っていた。
「双葉神社か。
何度も前を通っているけど、やってるのか?」
境内に入ると古びた神社がひっそりとたたずむだけで、人気は全くなかった。
「なんだかご利益なさそうだけど、お参りしないよりはマシだよな。
えーと、どんな作法だっけ?」
「二礼二拍手一礼」
「え?」
声がした後ろを振り返ると、妖怪みたいな顔がクシャっとしたおじいさんが立っていた。
「二礼二拍手一礼じゃ」
おじいさんはもう一度同じことを言うと、俺の横に立ち作法をやってみせた。
俺も言われた通りおじいさんと同じ作法をする。
「見かけない顔じゃな」
「あ、はい。
初めてお参りしました」
こちらを見ることなく神社をじっと見つめるおじいさん。
その表情はシワのせいなのか、怒ってるのか笑ってるのか悲しんでいるのか、よく分からなかった。
「ここはな、忘れられた神社でな。
もう誰も手を合わせにこん。
ワシは毎日こうやってお参りに来とるが、誰に会うこともない。
お主みたいな若者がお参りしてるのを見るのも、もうずっと昔のように思えるわ」
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