四 ぼくが溶けた

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 ケンちゃんは通学路から外れて、人気(ひとけ)のない路地に入っていった。  自動販売機を見つけると、ケンちゃんは定期入れを端末にかざし、ペットボトルのお茶を買った。中身を側溝に捨てて、ぼくを見すえる。 「猫、出せよ」  ぼくはランドセルからトラ丸の入ったペットボトルを取り出した。ケンちゃんはそれをひったくるように奪うと、オレンジ色の液体を一滴もこぼさずに移した。 「ほらよ。半分こだ」  底一センチに減ったペットボトルをぼくに渡してきた。 (トラ丸がまた減ってしまった)  ぼくはうつむいた。すごく悲しかった。 「……ねえ、誰に使うの」  ケンちゃんは「兄ちゃんだよ」と吐き捨てるように言った。  そして、ぼくに目をやった。 「それと――おまえにな」
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