プロローグ SIDE:勇元 心

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 ここ数百年で急激に進んでいった技術の進化は、都市部では抵抗なく受け容れられていった。  けれど、地方では守旧的だったり、そういった新技術に懐疑的だったりする勢力が根強い地域も多い。  僕が家族と共に移り住んだ地域もそうだった。  恐ろしいことに、あの地方ではヨクトチップを脳内に埋めていない人が大半を占めている。  向こうの地元有力名士が興した大企業が【自然への回帰】を謳い文句にして、多くの地元民を雇い従えて権勢を振るっていたからだ。  だから、向こうではヨクトチップを体内に埋めることは、【自然の一部である人類を人工的に造り換え、冒涜する行為】として、徹底的に忌み嫌われている。  そのことは、ブレホを使っている時に『メヒカリ』という差別用語を日常的に飛ばされたことで、否が応でも思い知らされた。  同じ理由で、向こうではブレホを使った通信教育も禁止されており、校舎という前時代的な場に学生をわざわざ集めて教育を行っている。  それだけなら、非効率だけどそういう形態もあるかなくらいに思ったかもしれないけれど、現実はもっと過酷で残酷だった。  そこで行われていたのは、周囲と同調できない者、異質である者に対しての徹底的な攻撃、排斥、矯正、そして有形無形の暴力だった。     
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