プロローグ SIDE:勇元 心

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               4月9日(木) SIDE:勇元 心 「……以上の国法に背くことは不正であるという理由から、ソクラテスは国法に背くことなく敢えて死罪の判決に従い、毒杯をあおいで死を受け容れたのです」  ブレホを通して聞こえてくる講師の声が、僕の聴覚器官へと伝わってくる。 「ソクラテスの事例を基に、正しく生きること、善く生きることの意味を、皆さんもよく考えてみるといいでしょう」  僕は今、騒がしくない静かな喫茶店で、ブレホの通信動画を見ながら倫理の授業を受けている。  ブレホによって目の前の視界に投影される3Dホログラフ動画は、他の人には見えないように設定されているので、周囲の人の視界の妨げになることはない。  同様に、音声も僕の聴覚器官にしか届かないように設定されているため、周囲の人に雑音として迷惑を掛けることはない。 「おや、質問が来ていますね。ふむふむ、人々が争わずに善く生きる社会にするためには実際にどうすればいいのでしょう、ですか……。なるほど、いい質問です。そうですね、私であれば……」     
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